免疫学:SARS-CoV-2ワクチンの接種は、ワクチン接種を受けていない人の感染も防ぐ
Nature Medicine
2021年6月10日
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)ワクチンの接種レベルが高いほど、16歳以下でワクチン接種を受けていない人たちのSARS-CoV-2感染率が低くなることを示した研究がNature Medicine に掲載される。この知見は、イスラエルの別々の177の地域で2020年12月6日から2021年3月9日にかけて行われたワクチン接種の記録と感染検査結果の分析に基づくもので、SARS-CoV-2ワクチンの接種がワクチン既接種者とワクチン未接種者の両方を感染から守ることを明らかにしている。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するファイザー・ビオンテック社製ワクチンが、個人レベルで、また地域社会レベルで感染や発症の予防に非常に高い有効性を示すことは、臨床試験とワクチン接種キャンペーンによって、すでに明らかになっている。しかし、ワクチン接種は人の行動を変化させるため、ウイルスの伝播を増やす可能性も示唆されてきた。例えば、ワクチン接種を受けた人は、ソーシャルディスタンシングにあまり気をつかわなくなったり、COVID-19患者に接触した後でも自主隔離をしなかったりするかもしれない。
イスラエルでは、2020年12月19日にワクチン接種が始まり、9週間以内に人口のほぼ50%が初回接種を終えた。ワクチン接種が、ワクチン未接種者の間でのSARS-CoV-2伝播を集団レベルで減少させるかどうかを調べるために、R Kishony、T Patalonたちは、ワクチン接種率が異なっている177の地域(ファイザー・ビオンテック社製ワクチンの初回接種を受けた人数は合計で137万人になる)と、接種できるワクチンがまだないために接種を受けていない16歳以下の集団に着目した。そして、一定の期間をおいてそれぞれの地域でSARS-CoV-2検査を行い、陽性者数の変化を調べた。その結果、ある集団内のワクチン既接種者数が20%増えるごとに、同じ地域のワクチン未接種集団中でSARS-CoV-2検査で陽性と判定される数が、平均して約2分の1に減少することが分かった。
だが、この結果はSARS-CoV-2に対して自然免疫が獲得された可能性は考慮に入れていないことに、著者たちは注意を促している。ワクチンに関連する防御効果がワクチン未接種者集団にもおよぶという今回の観察結果は有望なものではあるが、ワクチン接種キャンペーンが集団免疫の獲得やCOVID-19の根絶を支えるかどうかを知るには、さらなる研究が必要である。
doi:10.1038/s41591-021-01407-5
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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