天体物理学:2I/ボリソフと太陽系彗星からニッケルが検出された
Nature
2021年5月20日
恒星間彗星である2I/ボリソフを取り巻くコマ(塵とガスの雲)から検出されたニッケルが、この彗星の起源と誕生時の条件を解明する手掛かりとなる可能性のあることが分かった。この知見を報告するPiotr GuzikとMichał Drahusの論文が、今週、Nature に掲載される。この知見については、観測された温度が低過ぎて、金属類の昇華が起こりやすいとは言えないため、予想外の知見と受け止められており、昇華とは別の機構が関係していることが示唆されている。一方、今回のニッケルの検出は、Nature に掲載されるJean Manfroidたちの論文で報告される太陽系の複数の彗星の低温コマからのニッケルの検出と整合性があり、我々の惑星系の恒星間天体と彗星の類似性が実証された。
彗星は、惑星の形成時に残った塵や氷で構成されており、初期の太陽系の化学的性質を解明する手掛かりになる可能性がある。彗星の組成は、コマ(彗星を取り囲む塵とガスの雲)の観測結果から推測される。彗星には、通常、金属類が存在しないという注目すべき特徴があり、これは、彗星の通常の温度が低過ぎて、コマの中に金属イオンがなかなか放出されないことが原因になっている。ただし、太陽の近くを通過する彗星は例外で、この種の彗星の温度は、ニッケルの昇華に必要な700ケルビンを超えると予想されている。
GuzikとDrahusによって原子状ニッケルが検出されたことは、予想外の結果だった。観測当時(2020年1月)の2I/ボリソフは、太陽から遠く離れており、その温度が180Kと推定されていたためだ。今回の研究では、原子状ニッケルの蒸気の正体を明らかにするため、入射太陽エネルギーの予測レベルと彗星の速度に基づくニッケル放出モデルが実行された。その結果は、観測結果とほぼ一致していた。GuzikとDrahusは、低温条件下では、光子が化合物を分解する光解離と呼ばれるプロセスを介してニッケル含有分子からニッケルが放出される可能性があるという考えを示している。
一方、Manfroidたちによる別の研究では、複数の太陽系彗星の低温コマの中にガス状のニッケル(と鉄)が存在することが明らかになった。これらの彗星は2I/ボリソフと類似しており、まだ分かっていない2I/ボリソフの誕生場所と太陽系の親和性が示唆されているという考えをGuzikとDrahusが示している。同時掲載されるDennis BodewitsとSteven BromleyのNews & Viewsでは、「普通の彗星や2I/ボリソフに存在するニッケルや鉄の起源を解明できれば、異なる惑星系に共通する有機化学の物語を解明できるかもしれない」と述べられている。
doi:10.1038/s41586-021-03485-4
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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