メンタルヘルス:COVID-19パンデミック下の日本における自殺率の変化
Nature Human Behaviour
2021年1月15日
日本の1か月当たりの自殺率は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの最初の5か月間で14%低下したが、第2波においては16%上昇したことを明らかにした論文が、Nature Human Behaviourに掲載される。今回の研究は、日本の全人口を対象としたデータセットについて報告しており、パンデミックの第2波の間には、女性、子ども、青年の自殺率に大きな増加が見られることも判明した。
COVID-19パンデミックの心理的影響と、その自殺リスクへの影響が懸念されている。自殺が単一の要因によることはまれであり、自殺の広がりの背景にある要因は複雑に入り組んでいる。国の政策の中には、労働時間や就学時間の短縮や、助成金の支給につながっているものもあり、これらは幸福感の増大と関連している可能性がある。一方で、COVID-19の脅威は不安感を増大させ、ソーシャル・ディスタンシングは、人々の結び付きの希薄化、孤立感の増大、医療サービスの利用制限につながっている可能性がある。こうした影響の一部は、自殺の危険因子としてよく知られている。しかし、COVID-19パンデミックにおける自殺率の変化に関する信頼性の高い確実な証拠はいまだほとんど存在しない。
東京都健康長寿医療センター研究所の岡本翔平(おかもと・しょうへい)と田中孝直(たなか・たかなお)は、2016年11月~2020年10月の日本の全人口(1億2000万人以上)をカバーする都市レベルのデータを解析した。その結果、1か月当たりの自殺率は、COVID-19パンデミックが発生した最初の5か月間(2020年2~6月)に14%低下していたことが判明した。成人の自殺は、緊急事態宣言中(2020年3~4月)に大きく減少しており、これは女性(27%)と男性(21%)の両方で認められた。岡本たちは、この自殺率の低下は、国からの補助金が支給されたことで経済的困窮が減少し、労働時間や通勤時間が短縮されたことで生活満足度およびメンタルヘルスの改善につながったことと関連している可能性があると示唆している。同様に、岡本たちは、学校の閉鎖が、第1波の小児や青年の心理的負担を減じていた可能性があると示唆している。
これに対して7~10月の第2波では、1か月当たりの自殺率が16%上昇し、上昇幅は女性(37%)、小児・青年(49%)で大きかった。こうした知見は、従来の自殺パターンと顕著に異なっていることを示している。日本では一般に、男性の自殺率は女性の2.3倍である。パンデミックの第2波では、女性の自殺死亡率の増加率(37%)は、男性(7%)の約5倍であった。なお、既婚で賃金労働に従事していない成人女性の自殺は、パンデミックの全期間を通して増加していた。岡本たちは、今回の結果は、このコロナ危機が、女性が多くを占める業種に偏って影響を及ぼしていて、自宅で過ごすことが母親の負担を増大させることを示した最近の研究結果と一致すると述べている。
岡本たちは、COVID-19パンデミックは、女性、小児、青年の精神的健康に偏って影響を及ぼしている可能性があると結論している。さらに彼らは、今後の自殺予防戦略は、第1波の間に自殺の減少に寄与した可能性のある諸因子を考慮すべきであり、効果的な予防は特定の集団に合わせてカスタマイズされるべきだと提言している。
doi:10.1038/s41562-020-01042-z
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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