医学研究:COVID-19を原因とする重症疾患に関連する遺伝的要因が同定される
Nature
2020年12月11日
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者が致命的な疾患を発症することに関連する遺伝的バリアントについて報告する論文が、Nature に掲載される。今回の研究は、重症化したCOVID-19の症状を支える機構の解明を進め、治療薬開発のための標的を明確に示し、いくつかの既存の薬剤がCOVID-19の重症患者の回復に役立つ可能性のあることを示唆している。
今回、Kenneth Baillieたちの研究グループは、英国内の208カ所の集中治療室(英国内の集中治療室の95%以上に相当する)に入室しているCOVID-19の重症患者(2244人)についてゲノム規模関連解析を実施した。Baillieたちは、これらの重症患者の遺伝子構成を対照群のゲノムと比較し、COVID-19患者において出現頻度の高い8種類の遺伝子塩基配列を特定し、そのうちの5種類(1つの既知の遺伝子座を含む)を別のコホートで再現した。これらの塩基配列は、炎症過程や侵入してくるウイルスに対する体の反応に関与する遺伝子に関係している。また、コンピュータによるフォローアップ解析が実施されて、これらの遺伝子配列がCOVID-19を原因とする重症疾患に関係していることを示すさらなる証拠が得られ、この重症疾患に関係している新たな候補遺伝子(TYK2、CCR2など)が示された。これらの遺伝子は、炎症性タンパク質をコードしている。
以上の研究結果は、COVID-19を原因とする重症疾患が、少なくとも2つの生物学的機構によって支えられていることを示唆している。その1つが先天性抗ウイルス防御で、初期のCOVID-19に重要なことがわかっている。もう1つは宿主が仲介する炎症過程で、生命にかかわる後期COVID-19の重要な特徴だ。Baillieたちは、このことを念頭に、インターフェロンシグナル伝達を増強し、有害な炎症経路を標的とし、肺における単球の活性化と浸潤を減弱させる薬物が、COVID-19の重症患者の治療に役立つ可能性があるという考えを示した。例えば、TYK2は、関節リウマチ治療薬バリシチニブの標的であり、CCR2を阻害するモノクローナル抗体は、関節リウマチの前期臨床試験で検証された。Baillieらは、COVID-19の治療におけるこれらの薬剤の使用を評価するために大規模な臨床試験が緊急に必要になっていると結論づけている。
doi:10.1038/s41586-020-03065-y
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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