Research Press Release
幹細胞:卵子を作り出す方法
Nature
2020年12月17日
8種類の転写因子のセットを用いて、実験室内でマウスの幹細胞を卵様細胞に転換できることを報告する論文が、Nature に掲載される。この知見は、卵の発生に関する理解を深めるものであり、生殖医療に影響を及ぼす可能性もある。
卵母細胞(未成熟な卵細胞)の発生は複数の段階を経て起こるが、この過程に関与する遺伝子の調節ネットワークは不明である。
今回、九州大学大学院医学研究院の林克彦(はやし・かつひこ)たちの研究チームは、マウスの胚性幹細胞を用いて、卵母細胞の成長を引き起こすために必要な8種類の転写因子(遺伝子発現を調節するタンパク質)を特定した。次に林たちは、マウスの多能性幹細胞で8種類の転写因子の発現を誘導することで、これらの転写因子が卵母細胞の成長を駆動するのに十分かを検証した。その結果、卵様細胞が作られることが明らかになり、林たちは、この卵様細胞を「直接誘導性卵母細胞様細胞(directly induced oocyte-like cell)」と命名した。これらの細胞は減数分裂しなかったが、受精能を有しており、胚発生の8細胞期まで分裂できた。ただし、それ以上、発生は進まなかった。
林たちは、この卵様細胞が、生殖補助技術において非常に貴重であり独特な材料である卵母細胞の細胞質の供給源になる可能性があると考えている。
doi:10.1038/s41586-020-3027-9
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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