ウイルス学:肺オルガノイドと大腸オルガノイドを用いた抗SARS-CoV-2薬の選別
Nature
2020年10月28日
ヒト多能性幹細胞から樹立された肺オルガノイドシステムと大腸オルガノイドシステムを使った研究で、3種のFDA承認薬が抗重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)活性を有することが明らかになった。今回の研究で、肺オルガノイドと大腸オルガノイドが、SARS-CoV-2感染の研究と新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬候補の発見のためのモデルとして役立つことが実証された。この研究結果について報告する論文が、Nature で発表される。
COVID-19の症例数とこれに起因する死者数が世界中で増加し続けているため、SARS-CoV-2の生物学的性質の研究に用いるヒトに関連したモデルを作成して、薬剤スクリーニングを促進することが緊急に必要とされている。SARS-CoV-2は、主に気道に感染するが、COVID-19患者の約25%には消化器症状もあり、これは転帰の悪化と関連している。
COVID-19の症例数とこれに起因する死者数が世界中で増加し続けているため、SARS-CoV-2の生物学的性質の研究に用いるヒトに関連したモデルを作成して、薬剤スクリーニングを促進することが緊急に必要とされている。SARS-CoV-2は、主に気道に感染するが、COVID-19患者の約25%には消化器症状もあり、これは転帰の悪化と関連している。
今回、Shuibing Chenたちの研究グループは、ヒト多能性幹細胞を用いて、SARS-CoV-2に対する肺細胞と腸細胞の感受性を評価するために用いることができる肺オルガノイドモデルと大腸オルガノイドモデルをそれぞれ開発した。Chenたちは、これらのオルガノイド、特にII型肺胞様肺細胞と腸細胞(小腸上皮細胞)が、ACE2受容体を発現していること見いだした。ACE2受容体は、SARS-CoV-2が結合することが知られており、SARS-CoV-2に感染し得る。
次にChenらは、これらのオルガノイドを用いてFDA承認薬のスクリーニングを行った。その結果、3種の薬剤(イマチニブ、ミコフェノール酸、キナクリン二塩酸塩)が、これらのオルガノイドへのSARS-CoV-2の侵入を阻害することが分かった。そして、肺オルガノイドと大腸オルガノイドを移植したヒト化マウスを用いた実験で、SARS-CoV-2感染の前または後に生理的に適切な用量でこれらの薬剤を投与したところ、これらのオルガノイドのSARS-CoV-2感染が予防された。
以上の知見は、COVID-19治療薬候補を特定するために使用できると考えられる薬剤スクリーニングにとっての情報源となる。例えば、イマチニブを使ってCOVID-19患者を治療する4件の臨床試験が登録されているが、今回の研究は、これらの臨床試験を裏付ける実験データをもたらしている。
doi:10.1038/s41586-020-2901-9
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
注目のハイライト
-
神経科学:ショウジョウバエの脳の完全な地図Nature
-
公衆衛生:米国におけるサイクロンによる超過死亡数の定量化Nature
-
物理学:雷雨におけるガンマ線に関する驚くべき発見Nature
-
天文学:JWSTが冥王星最大の衛星の表面を調査Nature Communications
-
地球科学:エベレスト山の最近の急成長を調査するNature Geoscience
-
気候変動:南米で高まる熱波、干ばつ、および火災のリスクCommunications Earth & Environment