疫学:公表された米国のCOVID-19症例数は実際よりかなり少ないかもしれない
Nature Communications
2020年9月9日
米国における2020年4月18日までのCOVID-19の新規症例数が640万例を超えていたとする確率分析の結果がNature Communications で掲載された。同じ期間中の確認されたCOVID-19の症例は、合計72万1245例だった。
米国でCOVID-19症例が初めて確認されたのは2020年1月21日だった。COVID-19のパンデミック(世界的大流行)が起こった当初の数か月間、米国疾病管理予防センター(CDC)は、中等度や重度の症状を呈する傾向のある入院患者の検査を優先的に行うよう勧告した。しかし、ウイルス検査陽性者の30~70%は、軽度の症状しか示さず、症状が全く見られなかった者もいた。
今回、Jade Benjamin-Chung、Sean Wuらの研究グループは、確率的バイアス分析を行って、検査が十分に行われていないことと検査の精度が100%未満であることを補正した上で、2020年2月28日から4月18日までの期間中における米国各州のSARS-CoV-2感染者の総数を推計した。その結果、SARS-CoV-2感染症例が645万4951例(1000人当たり19人)となった。この推計値は、同じ期間中の確認症例(1000人当たり2人)の約9倍になっており、感染症例の89%が記録されていないことを意味する。この格差の大部分(約86%)は、検査が十分に行われていないことが原因であり、残りの部分は、検査の精度不足が原因だった。
今回の研究では、COVID-19の発生率が北東部、中西部とルイジアナ州で最も高く、確認症例数を用いた場合も推定感染者数を用いた場合も同じ結果だった。症例数の過小評価が相対的に多く見られたのは、プエルトリコ、カリフォルニア州といくつかの南部の州だった。そして、33州で推定感染者数が確認症例数の10倍以上になった。
Benjamin-Chungらは、今回の研究に用いられた方法には、伝播モデルが組み込まれていなため、ウイルス感染の拡大に関する予測ができないことを指摘する一方で、特定の時点の感染負荷に関して、これまでより現実に近い推定ができるようになると主張している。
doi:10.1038/s41467-020-18272-4
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
注目のハイライト
-
老化:人間の平均寿命の延伸が鈍化しているNature Aging
-
気候変動:ジンベイザメへの船舶衝突の脅威が増加Nature Climate Change
-
神経科学:ショウジョウバエの脳の完全な地図Nature
-
公衆衛生:米国におけるサイクロンによる超過死亡数の定量化Nature
-
物理学:雷雨におけるガンマ線に関する驚くべき発見Nature
-
天文学:JWSTが冥王星最大の衛星の表面を調査Nature Communications