代謝学:SARS-CoV-2感染後に糖尿病と診断された患者
Nature Metabolism
2020年9月2日
SARS-CoV-2に無症状感染したドイツ・キールの19歳の男性患者が、回復後にインスリン依存性糖尿病と診断されたという症例報告が、Nature Metabolism に掲載される。この報告でCOVID-19と糖尿病との因果関係が明確になったわけではないが、この知見から、SARS-CoV-2感染がヒトの膵臓(血糖値の調節の役割を担う臓器)の働きに悪影響を及ぼす可能性が示唆される。
SARS-CoV-2は、糖タンパク質ACE2への結合を介してヒト細胞に侵入するが、このACE2はヒトの膵β細胞にもみられる。膵β細胞はインスリン生産に中心的役割を果たしており、ACE2がβ細胞の機能に重要なことが分かっている。最近報告されたいくつかの研究で、COVID-19と糖尿病に関連がある可能性が示されているが、COVID-19がヒト糖尿病の直接の原因になることを裏付けるデータは十分ではない。
今回、Matthias Laudesたちは、シュレースヴィヒ=ホルシュタイン大学医療センターの救急診療科に入院した19歳の白人患者の症例について報告している。彼は、異常な疲労、消耗、過度の口渇と頻尿を訴え、数週間で体重が12 kg減少した。血液検査の結果、β細胞の機能喪失をはじめとする糖尿病の特徴が見られた。この患者は、高リスクのヒト白血球抗原遺伝子型(自己免疫疾患にかかりやすくなる)は持っていなかったが、自己免疫性の1型糖尿病のリスクがやや上昇する遺伝子型を持っていた。しかし、一般的な自己免疫性1型糖尿病の患者に通常見られる自己抗体は認められなかった。この患者は、SARS-CoV-2に対する免疫グロブリンG(IgG)抗体陽性だったが、IgM抗体陽性ではなかった。これは、入院の7週間前から5週間前の間に、SARS-CoV-2に感染したことを示している。ちょうどその時期に、患者の両親がオーストリアへのスキー旅行から帰宅し、COVID-19の典型的な症状を示したという。
診断時に患者のヘモグロビンA1c(血糖値がそれまでしばらく正常より高かったかどうかを示すマーカー)が高かったことは、患者が最近、SARS-CoV-2感染よりも前に1型糖尿病を発症していた可能性があることを示唆しているが、著者たちは、糖尿病性のケトアシドーシス(1型糖尿病の重篤な合併症の1つで、血中に過剰な酸が作られる)によって、糖尿病の罹患期間にかかわらずヘモグロビンA1cレベルが高くなる可能性があると述べており、患者が糖尿病の症状を呈したのは感染後だけだと指摘している。
著者たちは結論として、この症例研究はCOVID-19が患者の糖尿病の原因であることを示しているわけではなく、患者がそれまでに、自己抗体陰性の珍しい型の自己免疫性1型糖尿病に罹患していた可能性は除外できないとしている。しかし、ウイルスのβ細胞に対する直接的な作用によって、SARS-CoV-2感染が膵臓の機能に悪影響を及ぼした可能性はあるとも述べている。SARS-CoV-2感染と糖尿病の新規発症とに関連があるかを調べるには、さらなる疫学研究と実験研究が必要である。
doi:10.1038/s42255-020-00281-8
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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