疫学:ヨーロッパにおけるSARS-CoV-2の伝播がロックダウンでどのように変化したか
Nature
2020年6月8日
ヨーロッパ諸国が大規模なロックダウン(都市封鎖)とそれ以外の非薬剤的介入によってSARS-CoV-2の伝播レベルを十分に低下させて、流行の拡大を抑制することに成功したと示唆するモデル研究について報告する論文が、Nature に掲載される。伝播レベルの低下という推定結果は、2020年5月初めまでのヨーロッパの11カ国のデータの集積に基づくものであり、現状に対する一般的な見方を示すものだが、各国の対策の違いを十分に説明できていない可能性がある。
ヨーロッパ諸国は、2020年3月2〜29日に、COVID-19の流行を抑制するために主要な非薬剤的対策(例えば、学校の閉鎖や国内封鎖)の実施を開始した。こうした介入策は、その経済的影響と社会的影響を考慮すれば、有効性の評価が重要で、それによって流行の抑制を維持する上で必要な方策が示されることになると考えられる。再生産数(感染者が感染力を失うまでに新たに生み出す可能性のある平均症例数)を推定することは有用な手段だが、再生産数を、症例データを用いて計算することが難しい場合がある。COVID-19の場合、未報告例の割合が大きい可能性があるからだ。これとは別に、COVID-19の流行を把握する方法として、報告された死亡数を分析して、感染レベルを遡及的に算定するモデルがある。死亡数データについても過小報告や報告の誤りが起こり得るが、症例データよりは信頼性が高いと考えられており、未報告例の割合を推定する上でも有用である。
今回、Seth Flaxmanたちの研究チームは、非薬剤的介入の結果としてCOVID-19の流行の経過がどのように変化したのかを、死亡数データを用いて推測している。Flaxmanたちは、ヨーロッパの11か国(英国、スペイン、イタリア、ドイツ、ベルギーなど)の2020年5月4日までのデータを解析し、その日までに合計1200~1500万人がSARS-CoV-2に感染したという推定結果を示している。これは、11か国の総人口の3.2~4%に相当するが、国別に見ると、この比率に大きなばらつきがあった。また、Flaxmanたちは、独自のモデルを使って、介入が行われなかった場合の死亡数を予測した上で、実際に観察された死亡数と比較して、非薬剤的対策によって約310万人が死を免れたと結論している。そして、こうした介入策によって、再生産数が1を下回り、11カ国の平均減少率が82%だったという計算結果が示された。ただし、国別の減少率には、ばらつきがあった。
個々の制裁措置についてCOVID-19の流行を抑制する効果を評価することは、プールされたデータを使用することや制裁措置とその後の非薬剤的介入との時間的間隔が短いという事情があるために難しくなっている。また、Flaxmanたちのモデルの1つの限界は、それぞれの措置が各国で同じ効果をもたらすことを前提としている点だ。実際には、ロックダウンの有効性は、国によって異なっていた。それでもFlaxmanたちは、ロックダウンは、再生産数を1未満まで減らす顕著な効果があり、5月初めの時点でCOVID-19の流行拡大を抑制する上で役立っていたと結論付けている。
doi:10.1038/s41586-020-2405-7
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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