生物工学:透明になるヒト細胞の作製
Nature Communications
2020年6月3日
実験室での実験で、透明になることのできるヒト細胞について報告した論文が、今週、Nature Communications に掲載される。
多くの頭足類は、皮膚での光の透過、吸収、反射の仕方を変えることができ、これをカムフラージュの目的に用いることがある。雌のカリフォルニアヤリイカ(Doryteuthis opalescens)もこの機構を用いて、外套膜の縞模様を透明に近い状態から白色に変化させて自分に対する攻撃行動を避けようとする。こうした過程は、いずれの場合も白色素胞という細胞に依存している。白色素胞には、リフレクチンというタンパク質が含まれており、これが白色素胞の光学的特性を変化させる。
今回、Alon Gorodetskyたちの研究チームは、頭足動物の適応性のある皮膚細胞に着想を得て、制御可能で可逆的に透明になることのできるヒト細胞の設計と作製に着手した。Gorodetskyたちは、ヒト胎児由来腎臓細胞を選定した上で、それを操作して、カリフォルニアヤリイカの外套膜に含まれるリフレクチンA1を発現するようにした。そして、リフレクチンA1の発現がヒト細胞の光との相互作用に影響を与えるのか、また、こうした特性が制御可能かを調べた。Gorodetskyたちは、室内実験において、塩化ナトリウム溶液の濃度を変えることで、作製した細胞の透明度を変えることができた。
Gorodetskyたちは、今回の研究で得られた知見は、生体の細胞と組織の内部で起こる諸過程の画像化をより鮮明にすることで、さまざまな生物システムの理解を向上させる可能性があると結論付けている。
doi:10.1038/s41467-020-16151-6
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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