合成生物学:研究目的の迅速なSARS-CoV-2の再構築
Nature
2020年5月5日
人工SARS-CoV-2を迅速に合成する方法について記述した論文が、Nature に発表される。SARS-CoV-2は、COVID-19呼吸器疾患を引き起こすコロナウイルスである。新興ウイルスの再構築は、診断法、治療法、ワクチンの開発研究に役立てることができる。
実験室でのウイルスの再構築は、疾患の集団発生に関与する病原体を研究するための有用なツールである。疾患の集団発生があった場合、ウイルスのサンプルが研究施設に送達されるまでに長い時間がかかることがあり、こうした病原体の輸送が危険すぎると考えられることもある。多くのウイルスは大腸菌を使って複製できるが、コロナウイルスは大き過ぎるために大腸菌を使ったクローンの作製は容易でない。人工ウイルスのゲノムを再構築する別の方法として、酵母を用いる方法があり、今回、Volker Thiel、Joerg Joresたちの研究チームが、この方法を採用して、人工SARS-CoV-2を合成した。
Thiel、Joresたちの研究チームは、2020年1月初旬に公開されたSARS-CoV-2のゲノム塩基配列を鋳型として用い、このゲノムを重複のある断片(12個)に分割し、バイオテクノロジー企業に人工コロナウイルスDNAの短配列14個を発注した。その目的は、これらの短配列を再結合してSARS-CoV-2ゲノム配列を再構築することであったが、そのうちの2つの短配列が納品されなかった。しかし、Thiel、Joresたちは、SARS-CoV-2に感染した地元の患者からSARS-CoV-2のサンプルを入手し、このためこの2つの短配列を生成できた。複数のクローンが作られ、精製されて、この患者のサンプルによく似た人工SARS-CoV-2のゲノムが生成されたが、複製に若干の違いのあることが観察された。
この人工ウイルスは、DNAの短配列を受領してから1週間後に合成された。この方法は、所要時間が短く、臨床検体を利用する必要がないことから、Thiel、Joresたちは、感染力のあるウイルスを衛生当局と診断検査機関に提供する新たな方法として注目を集めると結論付けている。
doi:10.1038/s41586-020-2294-9
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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