医学研究:サージカルマスクは、季節性コロナウイルスの感染症状が見られる患者からのウイルス伝播を防ぐ可能性がある
Nature Medicine
2020年4月4日
外科手術用のサージカルマスクは、季節性コロナウイルスとインフルエンザウイルスへの感染症状が見られる患者からのウイルス伝播を防ぐのに有効かもしれない。Nature Medicine に掲載される論文は、呼吸器飛沫中のインフルエンザウイルスやエアロゾル中の季節性コロナウイルスの検出量が、マスクによってかなり減少することを明らかにしている。SARS-CoV-2は季節性コロナウイルスと近縁関係にあるが、その伝播がマスクによって特異的に防げるかどうかを判断するには、さらなる研究が必要である。
これまでの研究で、呼吸器系のウイルス感染は、コロナウイルスが原因のものも含めて、主としてヒト間の密接な接触(濃厚接触)を介して広がることが明らかになっている。しかし、インフルエンザウイルスやコロナウイルスが、非常に近い距離にいるヒトの間でどのようにして広がるのか、つまり直接の接触によるのか、呼吸器系の大きな飛沫を介するのか、あるいは他人の呼気を吸い込むことによるのかについての直接的な証拠は得られていない。呼吸器系ウイルスは環境中でも生存できるので、間接的な接触を介して広がる可能性もある。大きめの呼吸器飛沫は飛沫の源の近くに落ちるもが、もっと小さい微粒子からなるエアロゾルと同じようにウイルスが含まれていて、短距離圏内での伝播を引き起こす可能性がある。さらに、エアロゾルは大きい飛沫よりも空気中に長く残り、より長い距離を越えて感染を広げると考えられ、高濃度で生じた場合や換気がほとんどなされなかった場合には特に感染を拡大する恐れがある。
ソーシャルディスタンシング(人と人の間に十分な距離を確保する)、手洗い、換気、マスク着用などといった薬剤以外の手段は、ウイルスの伝播を防ぐ重要な方法になる可能性がある。マスク着用は、これまでインフルエンザウイルスの伝播を遅らせると考えられてきたが、季節性コロナウイルスなど他の呼吸器系ウイルスの伝播に関して、他の方法と比べた場合にどの程度重要となるかは、ほとんど分かっていなかった。
今回、N Leungたちは、呼吸器系ウイルス感染症の疑いがある246人にマスクを着用した状態としない状態で検体採取用の装置 (Gesundheit II)に向かって呼吸をしてもらい、呼気中の相対的なウイルス量を比較した。コロナウイルス、インフルエンザウイルス、もしくはライノウイルスのいずれかへの感染が確認された111人の中で、季節性コロナウイルスの場合はマスクによって呼吸器飛沫とエアロゾル中のウイルス量が減少し、インフルエンザウイルスの場合は呼吸器飛沫中のウイルス量が減少したが、ライノウイルスの場合はマスクによるウイルス量の減少は見られなかった。
SARS-CoV-2と季節性コロナウイルスは近縁であり、ウイルス粒子の大きさも同程度と考えられる。従って、サージカルマスクに呼吸器飛沫やエアロゾル中の季節性コロナウイルス量を減らす効果があるというこの結果は、SARS-CoV-2感染者がこのようなマスクを着用すれば、ウイルス拡散を抑えるのに役立つ可能性を示していると、著者たちは述べている。
doi:10.1038/s41591-020-0843-2
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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