【神経科学】アルツハイマー病のアミロイドベータ繊維の構造が明らかに
Nature Communications
2019年10月30日
アルツハイマー病と脳アミロイド血管症の患者の脳組織から単離されたアミロイドベータ(Aβ)繊維の構造を報告する論文が掲載される。この新知見は、これらの疾患の構造基盤に関する新たな手掛かりであり、新薬開発にも役立つ可能性がある。
アルツハイマー病は、進行性の神経変性疾患で、その特徴の1つは、Aβアミロイドがプラークや血管壁に沈着することだ。実験室で作出されたAβアミロイド繊維については、その構造の特徴が十分に解明されているが、脳内のAβアミロイド繊維の構造は、ほとんど分かっていない。
今回、Marcus Fandrichたちの研究グループは、3人のアルツハイマー病患者の脳組織を死後に採取し、この脳組織からAβアミロイド繊維を精製し、低温電子顕微鏡を用いて構造を解析した。その結果、3人の患者の脳組織標本のAβアミロイド繊維の形態はそれぞれ異なっているが、構造的に近縁なことが明らかになり、そのうちの1つのAβアミロイド繊維について分子構造が決定された。意外だったのは、脳組織由来のAβアミロイド繊維の構造が実験室で作出されたAβアミロイド繊維の構造と大きく異なっていたことだ。例えば、脳由来Aβアミロイド繊維は右旋性で、そのペプチド折りたたみ構造は先行研究によるAβアミロイド繊維の解析結果とは明確に異なっていた。
このAβアミロイド繊維の構造は、患者由来アミロイド繊維の特徴を解明することの重要性をはっきりと示しており、さらには、アルツハイマー病の原因となるAβにおける変異の影響に関する手掛かりをもたらし、Aβアミロイド繊維の形成を阻害する薬剤の開発に役立つ可能性もある。
doi:10.1038/s41467-019-12683-8
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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