Research Press Release
がん:化学療法によって誘発される永久脱毛症のモデル化
Nature Communications
2019年8月28日
一部の化学療法の後に起こる永久脱毛症の発生機序について報告する論文が、今週掲載される。今回、ヒトの毛包が移植されたマウスモデルを用いた研究が行われて、毛包幹細胞に化学療法誘発性の変化が認められ、これが、永久的な脱毛につながることが明らかになった。
毛包には、多くの成体幹細胞種と同様に、再生のための細胞のプールが維持されているが、このプールは化学療法によって損傷を受けることがある。化学療法を原因とする脱毛が起こった場合、毛包幹細胞が最終的に回復して毛髪の成長が再開するが、一部の化学療法では、幹細胞プールが失われて永久脱毛症になる。
今回、Ohsang Kwonたちの研究グループは、ヒトの毛包を無毛マウスに移植し、化学療法誘発性の永久脱毛症のモデルを確立した。このマウスには、ヒトの永久脱毛症との関連が認められた2種類の薬剤による化学療法が実施された。その結果、最初に投与された薬剤によって幹細胞再増殖の波が生じ、2番目の薬剤が投与されると、大量の細胞死が起こることが分かった。その結果、幹細胞が枯渇し、毛髪は再生しなかった。Kwonたちは、幹細胞が、増殖時にDNA損傷に対する感受性を高め、そのために細胞分裂に問題が生じ、最終的に死滅することを示す証拠を提示している。
この新知見は、化学療法によって誘発される永久脱毛症の原因解明に役立つものであり、予防法の開発に応用できる可能性もある。
doi:10.1038/s41467-019-11665-0
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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