【神経科学】マウスの認知機能低下にリンパ管の機能不全が関連している
Nature
2018年7月26日
髄膜リンパ管は、中枢神経系を取り囲む膜の内部に位置し、高分子を排出するリンパ管のネットワークだ。この髄膜リンパ管の機能不全が、アルツハイマー病の症状と老化に伴う認知機能低下の悪化要因と考えられることがマウスの研究から明らかになったことを報告する論文が、今週発表される。
髄膜内のリンパ管は、齧歯類、非ヒト霊長類、およびヒトで見つかっているが、中枢神経系における髄膜リンパ管の機能と中枢神経系の病変における髄膜リンパ管の役割については、解明が進んでいない。
今回、Jonathan Kipnisたちの研究グループは、中枢神経系の脳脊髄液と間質液に含まれる高分子が髄膜リンパ管を通って頚部リンパ節へ排出されることを明らかにした。また、髄膜リンパ管の機能不全を起こした若い成体マウスに学習障害と記憶障害を見いだした。Kipnisたちは、老齢マウスの髄膜リンパ管の機能に著しい不全が認められ、これが、老化に伴う認知機能低下の諸側面の一部と関係している可能性を指摘している。また、老齢マウスに血管内皮細胞増殖因子Cを投与したところ、脳脊髄液と間質液に含まれる高分子が髄膜リンパ管から排出・除去される能力が改善され、その結果、学習と記憶の成績が向上した。
さらに、アルツハイマー病のトランスジェニックマウスモデルにおいては、髄膜リンパ管の機能不全によって髄膜におけるアミロイド沈着が促進されており、これはヒトの髄膜の病変に極めてよく似ていた。Kipnisたちは、髄膜リンパ管の機能を増強することが、老化に伴う神経疾患の予防または発症遅延のための有望な治療標的だと考えている。
doi:10.1038/s41586-018-0368-8
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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