Research Press Release

【生物工学】SCRaMbLEシステムを染色体に適用して酵母を改良する

Nature Communications

2018年5月23日

酵母ゲノム合成プロジェクト(Sc2.0プロジェクト)で、酵母の合成染色体にSCRaMbLE(LoxPを介した進化によって合成染色体の再編成と修正を行う)システムを適用し、酵母株を急速に進化させられることを実証した2編の論文が、今週掲載される。

出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)は広く用いられている工業用生物で、特定の生成物を合成し、あるいは過酷な工業条件に耐えられるように酵母株を適応させる必要がある。SCRaMbLEシステムは、酵母の合成染色体上の遺伝子を再編成して遺伝的多様性を生み出すシステムであり、それによって得られた酵母株が所定の目標(例えば、生成物合成の改善)に従って選択される。しかし、それぞれの染色体を1コピーしか持たない一倍体酵母の場合には、必須遺伝子が欠失すると、生産性の高い酵母株であっても死滅する。

今回、Jef Boekeたちの研究グループは、合成染色体を持つ酵母を野生型出芽酵母または近縁種(S. paradoxus)と接合させることで、この問題に取り組んだ。Boekeたちは、酵母株を摂氏42度、および高濃度カフェイン環境下での増殖にそれぞれ適応させることに成功し、二倍体の子孫は一倍体の子孫よりもロバストであることを実証した。また、二倍体酵母には「予備の」野生型染色体があるため、元の一倍体酵母株では失えば死滅すると考えられる必須遺伝子を、合成染色体から欠失させることができた。

一方、Tom Ellisたちの研究グループは、完全合成染色体Vを有する酵母株にSCRaMbLEを用いて、薬物合成を改善し、酵母株が別の糖供給源を代謝するように適応させた。また、Ellisたちは、この酵母株にペニシリンの生合成経路を付加し、ゲノムにSCRaMbLEを適用したところ、これまでの研究成果と比べて収量が倍増した。さらに、Ellisたちは同じ方法を用いて、木材由来のバイオマスとして広く用いられているキシロース中でも増殖できる酵母株を生成した。

doi:10.1038/s41467-018-03143-w

「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。

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