【微生物学】マウスMRSA感染モデルで殺菌効果を示した物質
Nature
2018年3月29日
マウスモデルを用いた前臨床研究で、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)を殺菌できる新しいクラスの抗菌物質が同定されたことを報告する論文が今週掲載される。世界の公衆衛生に対する抗菌剤耐性菌の脅威がますます大きくなっていることから、今回の研究は、有効かつ臨床的に有用な新規抗菌薬の開発を後押しすると期待される。
MRSAはヒトを死に至らしめる恐れがある細菌で、MRSA感染症は治療が難しい。その理由は、多くの菌株が従来の抗菌剤に対する抵抗性を獲得していることだけでなく、代謝的に不活性で抗菌剤耐性を持つ持続生残細胞(persister)の一群も生成されることにある。今回、Eleftherios Mylonakisたちの研究グループは、実験室での分析で、MRSAの増殖中の細胞と持続生残細胞の両方を死滅させる2種類の合成レチノイド化合物を同定した。そのうち1つは、慢性MRSA感染症のマウスモデルの治療にも有効だった。
この合成レチノイド化合物は、ビタミンAの類似体であり、毒性レベルが低く、細菌の細胞膜の機能を破壊することで作用する。2種類とも、一般的な抗生物質であるゲンタマイシンと相乗的に作用し、Mylonakisたちは、細菌がこれらの合成レチノイド化合物に対する抵抗性を獲得する可能性は低いと考えている。現在、4000種以上の天然レチノイドと合成レチノイドが報告されており、その中にさらなる抗菌薬候補が見つかる可能性がある。一方、2種類の合成レチノイド化合物の安全性プロファイルを改善し、臨床試験の実施に近づけるためには、これらの化合物に関する研究のさらなる進展が必要とされる。
doi:10.1038/nature26157
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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