【生態学】熱水噴出孔を利用して卵嚢内の胚の発生を加速させている深海性のガンギエイ科魚類
Scientific Reports
2018年2月9日
深海に生息するガンギエイ科のトゲカスベ(Bathyraja spinosissima)が、熱水噴出孔から放出される火山熱を利用して孵卵していることが観察された。この結果について報告する論文が、今週掲載される。火山熱を利用する行動が海洋動物について観察されたのは今回が初めてだ。深海性のガンギエイ科魚類は、孵卵期間が数年間と最も長い部類に属しているため、熱水噴出孔を利用して胚の発生を加速させているのではないかと研究者たちは考えている。
深海熱水域は、最も解明の遅れたユニークな生態系を持つ場所の1つで、海洋地殻で加熱された熱水が放出されている海底域だ。今回の研究で、Pelayo Salinas-de-Leonたちの研究グループは、遠隔操作無人探査機(ROV)を使って、ダーウィン島の北45 kmに位置するガラパゴス諸島の活発な熱水域とその周辺の調査を行った。その結果、ガンギエイ科魚類の卵嚢157個が発見され、そのうちの4個がROVのロボットアームで回収された。これらの卵嚢は携帯電話くらいの大きさで、角状突起があり、色は黄色から茶色であった。DNA解析の結果、これらはガンギエイ科のトゲカスベの卵嚢であることが判明した。発見された卵嚢のうちの58%は、煙突のような「ブラックスモーカー」(熱水噴出孔の中で最も高温で、硫化物を主成分とする黒色の熱水を噴き上げている)から20 m以内に分布していた。さらに、89%以上は水温が平均より高い領域に分布していた。類似の孵卵行動は一部の陸生動物にも見られる。火山活動で加熱された土壌での孵卵行動は、現代のトンガツカツクリ(トンガ原産の希少鳥類)と白亜紀の竜脚類恐竜種の化石資料でも観察されている。
深海性のガンギエイ科魚類は、他の海洋生物と比べて寿命が長く、発生の速度が遅いため、絶滅のリスクが高くなっている、とSalinas-de-Leonたちは指摘している。ガンギエイ科魚類の発生と重要な生息地の必要性について理解を深めることは、有効な保全戦略を策定するとともに、具体的な孵卵場所を特定し、深海域へ拡大する漁業から保護する上で極めて重要だ。
doi:10.1038/s41598-018-20046-4
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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