Research Press Release
磁場による化学反応の遠隔制御
Nature Catalysis
2017年11月21日
磁場を用いる遠隔操作によって化学反応を開始する手法が、新ジャーナルNature Catalysisのオンライン版で今週報告される。この手法によって特定の場所と時間での分子放出が可能になるため、選択的薬物送達への応用が見込まれる。
通常、酵素は基質として知られる特定の標的と素早く反応する。基質に薬物分子を結合させて、この基質が酵素と接触したときにだけ薬物分子を放出させることができる。しかし、通常の条件下では選択性が問題になる。つまり、酵素と基質が同じ場所に存在すると、すぐに薬物が放出されてしまう。
今回Sergiy Minkoらは、酵素と基質を別々の酸化鉄ナノ粒子に結合させることで、この問題を克服した。そして、これらの粒子をポリマーコートで包み込み、相互作用できないようにした。磁場をかけなければ、予想通り、ナノ粒子に結合した酵素とナノ粒子に結合した基質との相互作用が起こらず、薬物が全く放出されないことが分かった。しかし、いったん磁場をかけると、ナノ粒子同士がくっついてポリマーコートが融合することで、必要な化学反応が起こり、薬物が放出される。次にMinkoらは、今回の手法を原理証明研究に用いて、化学療法薬ドキソルビシンを放出させることによってがん細胞を死滅できることを示した。
doi:10.1038/s41929-017-0003-3
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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