【生物工学】新しい腸管の作製
Nature Communications
2017年10月11日
「生きている」骨格を使って生物工学的に作製された器官を構築する方法により、ヒトの細胞に由来する血管新生化腸管移植片をラットに移植する実験が成功したことを報告する論文が、今週掲載される。この研究成果により、移植用臓器の不足という問題に直面する短腸症候群の患者にとっての治療選択肢候補が広がる可能性がある。
短腸症候群は、腸の一部が失われているために栄養を吸収する能力が低下している状態の疾患で、腸の移植が現行の治療方法だが、移植用臓器の数が少ない上、移植片の機能不全と細胞性拒絶反応のために3年生着率が低い。これらの問題に取り組む方法としては、患者由来の細胞を用いて生物工学的に作製された腸を移植することが考えられる。こうした腸を構築するために人工的な骨格を用いる研究がこれまで行われてきたが、十分な成功が得られていない。この他にも脱細胞化した腸が有望な骨格とされ、研究が行われてきているが、これまでに作製された腸には、栄養吸収の回復に必要な血管が正常に機能する状態で備わっていない。
今回、Harald Ottたちの研究グループは、血管新生と栄養素移動を実現できる骨格を作製した。Ottたちは、この骨格の血管新生を維持する方法を用いて、ラットの腸の一部から細胞を除去してから、栄養吸収能力を回復させるために2種類の腸細胞を再び添加した。最初にヒト幹細胞由来の上皮細胞を用いて複数の球状細胞(ミニ腸管球状体)が作製され、これらの球状細胞は、シリコンチューブを活用して骨格上で融合した。そして2週間の培養期間後に内皮細胞が添加された。栄養素の移動速度は、ラットから採取した元々の腸試料に近く、ラットへの移植から4週間後の時点で、生物工学的に作製された腸は生着と成熟を続けていた。
今回の研究の主な成果は、血管系が発達した骨格を作製して、健康な腸内で見られるような腸管上皮細胞の再生を可能にし、移植片の生着を長期化できるようになったことだ。この方法はヒトでは検証されておらず、移植片が元々の腸ほどの成熟度に達していないが、このように移植片の大きさと栄養吸収能力の点で技術的進歩があったことで、生物工学的に作製された正常に機能する腸管移植片が有望視されている。
doi:10.1038/s41467-017-00779-y
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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