【気候科学】アジアの氷河の運命を推測する
Nature
2017年9月14日
地球温暖化による気温上昇を産業革命以前との比較でわずか摂氏1.5度に抑えれば、21世紀末の時点で、アジアの高山帯の氷河に現在蓄積されている氷の約65%の損失を回避できる可能性があることを明らかにした研究論文が、今週掲載される。しかし、気温上昇を摂氏1.5度未満にとどめることは野心的な目標であり、今回の分析研究では、温室効果ガス生成速度が高いまま推移するシナリオの下で、現在蓄積されている氷質量の最大65%が失われることが示唆されている。
アジアの高山帯の氷河は、下流域の数百万の住民の給水確保に重要な役割を担っている。これらの氷河は、気温上昇のために質量を失い、後退しており、この地域での温暖化の速さは全球平均を上回っている。
今回、Philip Kraaijenbrinkたちの研究グループは、アジアの高山帯の氷河における気候に新たな限界値を設定することによって生じる影響を評価するため、衛星観測結果とさまざまな気候シナリオ下での氷河の進化モデルを併用した。2015年のパリ協定では、地球温暖化による気温上昇を産業革命以前との比較で摂氏1.5度未満に抑えることに配慮することを195か国が合意した。パリ協定が履行されるというシナリオの下でも2100年にはアジアの高山帯の氷河の質量の約35%が失われ、これよりも極端な気候シナリオの下では、氷河の質量減少がかなり大きくなるとKraaijenbrinkたちは予測している。具体的には、約3.5度の気温上昇で約49%の質量減少、約4度の気温上昇で約51%の質量減少、約6度の気温上昇で約65%の質量減少という予測になっている。こうしたシナリオの下での影響のちがいは、21世紀末の時点で、これらの氷河自体と氷河が山岳地帯のコミュニティーに提供する資源を維持できているか、アジアの氷河の質量の大半が失われるのかのちがいとなって現れるという考えをKraaijenbrinkたちは示している。
doi:10.1038/nature23878
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