【生態】ヨーロッパのイモリを絶滅寸前まで追い込んでいる病原性真菌の「パーフェクトストーム」
Nature
2017年4月20日
ヨーロッパに生息するイモリの仲間が真菌類の一種によって絶滅寸前まで追い込まれているが、これは、この真菌について新たに見つかった複数の特徴が併存することによる最悪の事態であることを報告する論文が、今週掲載される。この真菌は繁殖し続けているため、ヨーロッパ全土に早期警報システムを構築して、この真菌の動きを監視し、絶滅寸前の絶滅危惧種のイモリとサラマンダーをex situ(自然の生息地以外の場所)で保全することを優先課題とする緊急行動計画を策定することを論文著者は訴えている。
ヨーロッパに出現した病原性真菌のイモリツボカビ(Batrachochytrium salamandrivorans)に関しては、特に性的に成熟した成体のサラマンダーが数多く感染して死んでおり、最近になってサラマンダーの個体群が著しく減っている。今回、An Martelたちの研究グループは、イモリツボカビへの感染から2年間にわたってベルジャンファイアサラマンダー(Salamandra salamandra)の個体群の急速かつ持続的な崩壊を調べて、この個体群の縮小に関連するいくつかの因子を同定した。イモリツボカビは、姉妹種であるカエルツボカビ(B. dendrobatidis)と同様に運動性のある胞子だけでなく、丈夫な胞子と運動性のない胞子も産生する。その毒性は、水中と土壌中だけでなく、イモリツボカビ感染症の宿主である特定の両生類種でも維持されている。さらに、この真菌に感染しても生き続けているベルジャンファイアサラマンダーは、この真菌に対する抵抗力を持てない。
今回の研究は、疾患による生物多様性の減少に関する珍しい事例研究であり、絶滅過程の原因となる複雑な基本的機構に関する研究を利用して、生物多様性の減少に関する科学に基づいた政策決定に必要な情報を提供できることを示している。
doi:10.1038/nature22059
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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