腸内微生物相は脳卒中後の脳損傷に影響を及ぼす
Nature Medicine
2016年3月29日
マウスでは、脳卒中が起こった後の脳損傷を腸内微生物相の変化によって軽減できることが分かった。この知見は、腸と脳の間にこれまで知られていなかったつながりがあることを明らかにしている。
生物の体には、出生後の早い時期に腸などの臓器の障壁機能を持つ表面に微生物集団(マイクロバイオーム)が定着し、これらは免疫系の発達や代謝過程に大きな影響を及ぼす。炎症性腸疾患や肥満、喘息などの複数の病気でマイクロバイオームの変化が見つかっており、これは病気の転帰に影響を与える。
J Anratherたちは脳卒中のマウスモデルを使って、腸内微生物が炎症促進性免疫細胞の発達を調節することを明らかにした。このような免疫細胞は脳卒中が起こった後に腸から脳へと移動する。マウスに抗生物質を投与すると、腸内の炎症促進性免疫細胞と抗炎症性免疫細胞とのバランスが変化し、抗炎症性の制御性T細胞(Treg)の存在数が増えることが分かった。微生物相のこうした変化によって、脳卒中の発作後に脳へと移動する炎症促進性細胞の数が最終的に減少し、その結果、脳の損傷が軽減した。抗生物質を投与したマウスから投与しなかったマウスへと微生物を移植した場合でも、脳卒中後の脳損傷に対する同様の防御効果が見られた。腸と脳の間のこのような特異的な連携がヒトでも見られるとすれば、今回明らかにされた免疫細胞集団やその脳への移動を治療標的にしてやることで脳卒中の転帰に影響を与えられるだろうと著者たちは考えている。
doi:10.1038/nm.4068
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