【寄生虫学】抗マラリア薬アルテミシニンの作用機構
Nature Communications
2015年12月23日
抗マラリア薬「アルテミシニン」の作用標的となっている100種以上のタンパク質が同定されたとの報告が掲載される。今回の研究では、アルテミシニンがヘム(鉄含有化合物の一種)によって特異的に活性化されることも明らかにされた。
現在最も有効な抗マラリア薬であるアルテミシニンの活性化には、第一鉄の存在が必要とされるが、この鉄の供給源の性質とアルテミシニンの作用標的であるタンパク質の種類に関しては長く議論が続いている。
今回、Qingsong Linたちは、ヒトに感染するマラリア原虫の中で最も病原性の強い熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)の体内に入ったアルテミシニンの作用標的を可視化するために、化学物質によって標識されたアルテミシニン類似体を開発し、活性化したアルテミシニンが不可逆的に結合する124種のタンパク質を同定した。これらのタンパク質の多くは、熱帯熱マラリア原虫の必須の生物学的過程に関与しており、それこそがアルテミシニンが有効な抗マラリア薬となっている理由だと考えられる。また、Linたちは、ヘムがアルテミシニンを活性化させる第一鉄の主たる供給源であることを明らかにした。
これ以外にも薬物の作用標的が存在している可能性が高いが、今回の研究がもたらした新知見は、アルテミシニンによって熱帯熱マラリア原虫が死滅する過程を理解する上で役立つ。Linたちは、世界の一部の地域でアルテミシニン耐性が出現しているため、今回の研究結果が、これまでより有効なマラリア治療薬の開発の促進に役立つ可能性があるという見方を示している。
doi:10.1038/ncomms10111
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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