【寄生虫学】東南アジアの薬剤耐性マラリア原虫がアフリカの蚊に感染する
Nature Communications
2015年10月21日
東南アジアのアルテミシニン耐性マラリア原虫は、同じ地域内に生息する数種の蚊に感染するが、アフリカの蚊の主要種にも感染するという研究報告が掲載される。抗マラリア薬のアルテミシニンへの耐性は、これまでのところ東南アジアだけで見られるが、今回の研究で得られた知見は、この薬剤耐性が他の地域へも拡大する可能性を示している。
アルテミシニン耐性マラリアが隣接地域やアフリカに拡大すれば、世界的なマラリア根絶活動が大きく損なわれることが予想される。しかし、マラリアを媒介するハマダラカ属の蚊は非常に多様で、アルテミシニン耐性マラリア原虫が外来種の蚊に感染するのかどうかは分かっていない。
今回、Rick Fairhurstたちは、カンボジアのマラリア患者から単離されたマラリア原虫株(アルテミシニン耐性マラリア原虫株6匹とアルテミシニン感受性マラリア原虫株3匹)のいずれかを含む血液を餌とした東南アジアのハマダラカ属2種とアフリカの蚊(Anopheles coluzzii)がマラリア原虫に感染したかどうかを調べた。その結果、ほぼ全ての事例で、蚊の中腸と唾液腺からマラリア原虫が検出され、カンボジアのアルテミシニン耐性マラリア原虫とアルテミシニン感受性マラリア原虫がさまざまな種類の蚊に感染できることが明らかになった。
この実験でマラリア原虫に感染した蚊がヒトにマラリアを効果的に媒介することの実証はなされていない。しかし、今回の研究結果は、アルテミシニン耐性マラリア原虫がカンボジアに留まらず、アフリカへ広がる可能性があり、これがマラリア根絶にとっての重大な課題になるとする学説を裏付けている。
doi:10.1038/ncomms9614
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