神経科学:免疫系は仮想現実においても潜在的な脅威に備える
Nature Neuroscience
2025年7月29日
Neuroscience: Immune system prepares for potential threats even in virtual reality
潜在的な感染源が周囲に侵入すると、脳がそれを検知し、身体の免疫防御を準備することを報告する論文が、Nature Neuroscience にオープンアクセスで掲載される。この現象は、物理的な接触が行われる前であっても、仮想現実の環境では起こるかもしれない。この発見は、脳と身体が感染から身を守るために積極的に協力していることを示唆している。
捕食者からの脅威は、「闘争か逃走か(fight or flight)」の反応を引き起こすが、細菌やウイルスなどの病原体は、しばしば気づかれない別の種類のリスクをもたらすかもしれない。病原体との接触は、速効性の先天性免疫細胞と遅効性の適応免疫反応からなる免疫反応を引き起こす。しかし、感染が起こる前に脳と免疫系がどのように連携しているのかは不明である。
Andrea Serino(ローザンヌ大学〔スイス〕)とCamilla Jandus(ジュネーヴ大学〔スイス〕)らは、248人の健康な若年成人を対象に、仮想現実の環境で、発疹や咳などの目に見える感染症の兆候を示す人間のようなアバターと、中立的または恐怖を示す表情のアバターの顔を接近させる実験を行った。参加者は、病気の症状を示すアバターが自分の身体近傍空間(peripersonal space;身体をすぐ囲む空間)に入ったとき、触覚に対してより敏感に反応する傾向がみられた。これは、脳の身体近傍空間システムが警戒状態にあったことを示唆している。脳波(EEG:Electroencephalogram)と磁気共鳴機能画像法(fMRI:functional magnetic resonance imaging)による脳活動の測定により、著者らはまた、感染を示すアバターが近くにいるときと遠くにいるときでは、感覚情報の統合と空間認識に関与する脳領域が変化することも検出した。参加者から採取した血液サンプルは、感染を示すアバターへの曝露により、免疫系の重要な構成要素である自然リンパ球の活性が上昇しており、これは対照群よりもインフルエンザワクチン接種など本物の感染への応答に近いものであった。
著者らは、脳が潜在的な感染に対する早期の生理学的反応を調整し、免疫系を事前に準備できることを示唆している。
- Article
- Open access
- Published: 28 July 2025
Trabanelli, S., Akselrod, M., Fellrath, J. et al. Neural anticipation of virtual infection triggers an immune response. Nat Neurosci (2025). https://doi.org/10.1038/s41593-025-02008-y
doi: 10.1038/s41593-025-02008-y
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