材料科学:生体組織を模倣したセンサーを脳と腸に用いる
Nature
2022年6月2日
Materials science: A tissue-like sensor for the brain and gut
脳と腸の両方で神経伝達物質分子をリアルタイムで監視するために用いることのできる生体組織模倣型センサーについて記述した論文が、Nature に掲載される。このセンサーの威力は、マウスの脳–腸間の情報伝達の研究によって実証された。このセンサーデバイスは、体内の他の軟質臓器でも生体分子センシングを行える能力を有している可能性がある。
神経伝達物質は、人体のさまざまなプロセスやシステムにおいて重要な役割を果たしており、神経伝達物質の動態を監視することは、ニューロンとその標的との間の情報伝達を理解するうえで重要だ。しかし、生きた動物や人体における生化学的シグナル伝達を研究するためのツールは限られており、開発が遅れている。現存するプローブは、一般に硬質で、もろいため、特に脳や腸のように常に動いている臓器では、初期故障や重度の炎症反応につながる。
今回、Zhenan Bao、Xiaoke Chenたちは、この課題に取り組むために、グラフェンを用いて、柔らかく伸縮性のあるNeuroStringという名の電気化学センサーを設計した。このセンサーは、脳や腸の中で複数の神経伝達物質を同時に選択的にリアルタイムで感知する。Baoたちは、NeuroStringがマウスの体内で最長16週間にわたって神経伝達物質シグナルを検出し、並外れた安定性で長期間の神経化学センシングを実施できることを実証した。原理実証実験で、Bao たちは、NeuroStringを用いて、チョコレートを与えたマウスの脳と腸における神経伝達物質濃度の変化を測定した。カテコールアミンと5-HT(セロトニン)は、両方とも認知過程と腸機能の調節に関与する重要な神経伝達物質だ。チョコレートの摂取から数秒以内に脳内でカテコールアミンの放出が検出され、約30~60分後に大腸内でセロトニンの増加が観察されたが、これは、食物が消化管を通過する時間の典型例と一致している。以上の結果は、NeuroStringを利用して、神経伝達物質の動態と脳–腸軸での神経伝達物質の役割を解明できる可能性があることを明らかにしている。
今後、NeuroStringを用いる際には、選択性をさらに高めて、さまざまな分子を検出できるように開発を進めることが計画されている。Baoたちは、NeuroStringというプラットフォームは、優れた生体適合性と高い感度を兼ね備えており、霊長類の体全体でさまざまな生体シグナル伝達分子と電気生理学的シグナルの動態を研究するための強力なツールになり得ると結論付けている。
doi: 10.1038/s41586-022-04615-2
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