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構造生物学:昆虫の嗅覚受容体でのにおい物質認識の構造基盤

Nature 597, 7874 doi: 10.1038/s41586-021-03794-8

嗅覚系は非常に多様なにおい物質を検出し、識別しなくてはならない。この難問に取り組むため、さまざまな生物種が共通の戦略を編み出している。すなわち、嗅覚受容体からなる大きなファミリーの組み合わせによる活性化を介してにおい物質の正体を符号化し、広大な化学物質の世界を限られた数の受容体で感知できるようにするという戦略である。今回我々は、個々の嗅覚受容体が多様なにおい物質を順応性を持って認識する仕組みについて、構造と機序の面から手掛かりを得た。イシノミ類の昆虫であるMachilis hrabeiの嗅覚受容体MhOR5はホモ四量体として集合し、広範な化学物質で調節されるにおい物質依存性チャネルを構成する。我々はクライオ電子顕微鏡を用いて、単独、あるいは2種類のアゴニスト(におい物質のオイゲノールと昆虫の忌避物質であるDEET)と複合体を形成し、さまざまなゲート開閉状態にあるMhOR5の構造を解明した。どちらのリガンドも、各サブユニットの膜貫通領域に位置する、幾何学的に単純で同一の結合ポケット内に分布する疎水性相互作用を介して認識されていて、この受容体の幅広い化学的感受性はこのような構造原理によっていることが示唆される。結合ポケットの内側を覆う個々の残基を変異させると、MhOR5のオイゲノールとDEETに対する感受性が予想通り変化し、受容体の調節を幅広く変更できた。これらのデータを総合することにより、多様なにおい物質が結合のために同じ構造決定因子を共有するというモデルが裏付けられ、極めて多数の物質に対する識別能力を備えた嗅覚系を最終的にもたらす分子認識機構が明らかになった。

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