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医学:黒死病犠牲者から採取したペスト菌のゲノム概要塩基配列

Nature 478, 7370 doi: 10.1038/nature10549

DNAの回収および塩基配列解読の技術が進歩したことで、古い標本の遺伝的解析の範囲が非常に大きく広がり、今や全ゲノム研究が実現可能であり、これが急速に標準となりつつある。古い微生物のゲノムデータは、新規に生じたり再流行したりする感染症での病原体の進化や適応の機序を解明するのに役立つ可能性があるため、この傾向は感染症研究に重要なかかわりがある。今回我々は、英国ロンドンで1348〜1350年の流行で死亡したことが確実な黒死病犠牲者から得られた古いペスト菌(Yersinia pestis)ゲノムを、平均30倍のカバー率で再構築した結果について報告する。遺伝学的構造および系統発生解析から、古い細菌は現存するほとんどの菌株の祖先であり、ヒトの感染と一般に関連付けられているペスト菌の祖先ノードに非常に近い位置にあることを示している。時間的な推定から、1347〜1351年の黒死病は、現在広まっているヒトに対する病原性を持つすべてのペスト菌の祖先の導入および広範な播種の原因となった歴史的事象であったことが示唆され、さらに、現在のペスト菌の流行は、中世の時代に起源があることが示される。現代のゲノムとの比較で、中世のペスト菌に独特な派生部位は認められないことがわかり、黒死病の流行時には毒性が高かったと考えられているが、それは細菌の表現型によるものではなかった可能性があることを示している。今回得られた知見は、環境、媒介者の動態および宿主感受性などの、微生物遺伝学的なもの以外の因子が、ペスト菌の新興感染に関する疫学的考察の中心になるべきであることを示している。

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