注目の論文

ウイルス学:ヘテロ接合型CCR5 Δ32幹細胞移植後のHIV-1寛解

Nature

2025年12月2日

Virology: HIV-1 remission after heterozygous CCR5 Δ32 stem cell transplant

Nature

ドイツの60歳男性が幹細胞移植後に持続的なHIV(Human Immunodeficiency Virus;ヒト免疫不全ウイルス)寛解を達成した事例の詳細を報告する論文が今週のNature に掲載される。これは現在までに報告された7例目の症例である。この患者は、HIV-1感染に必要なタンパク質をコードする変異遺伝子を1コピーのみ持つ細胞を移植された(従来の寛解例では2コピーを持つ細胞が使用されていた)。この結果は、HIV排除の可能性を秘めた幹細胞ドナーのプールが従来考えられていたよりも広いことを示唆している。

これまでに報告された6例のほとんどは、がん治療のための幹細胞移植後にHIVが消失したが、その患者はCCR5(C-C chemokine receptor type 5;C-Cケモカイン受容体5型)タンパク質をコードする遺伝子変異のホモ接合体(2コピー保有)細胞を移植されていた。このタンパク質の正常型(野生型)はHIV感染に必須の受容体を形成するため、変異型(CCR5 Δ32)を持つ細胞はHIVに抵抗性を持つ。これまでは、このようなホモ接合型ドナー細胞が必要とされてきたが、最近の研究では、野生型CCR5を発現するドナー細胞でもHIV寛解が可能であることが示され、ウイルス排除にはほかの要因も関与している可能性が示唆されている。

Christian Gaeblerら(シャリテ・ベルリン医科大学〔ドイツ〕)は、ドナー細胞が変異型受容体遺伝子(CCR5 Δ32ヘテロ接合体)を片方のみ保有する状態での幹細胞移植後にHIV-1寛解を達成した症例を報告している。患者は、ベルリン在住の60歳男性で、2009年にHIVと診断され、2015年に急性骨髄性白血病を発症した。その患者は、がん治療のため同種造血幹細胞移植を受けたが、ホモ接合体CCR5 Δ32ドナーは見つからなかった。移植から3年後、患者は抗レトロウイルス療法を中止し、移植から6年後には患者体内でのHIV-1の複製は確認されなかった。

これらの知見は、CCR5発現を欠く細胞の存在が、幹細胞移植後のHIV-1寛解達成に必須ではないことをさらに裏づける。HIV-1寛解の正確なメカニズムは不明だが、最新の症例は、潜在的なドナー細胞プールをヘテロ接合体CCR5 Δ32細胞まで拡大できることを示唆している。
***
独立した研究グループによる追加の論文2報も同時に掲載される。

Steven Deeks ら(カリフォルニア大学サンフランシスコ校〔米国〕)は、併用免疫療法を受けた後に HIV-1 の複製が抑制された患者において、HIV-1 の制御に関連する免疫学的特徴を特定した。この試験には対照群がなかったため、併用免疫療法の有効性について確固たる結論は出せないが、同グループは、治療後のリバウンドが緩やかだった患者において、ウイルス制御に関連する T 細胞の特徴を特定した。David Collins ら(ハーバード大学とマサチューセッツ工科大学(MIT)〔米国〕)は、HIV-1 の寛解を誘導する介入に関する、これまでに報告されている臨床試験において、ウイルス制御を示した個人にも同様の T 細胞の特徴を確認した。

  • Article
  • Published: 01 December 2025

Gaebler, C., Kor, S., Allers, K. et al. Sustained HIV-1 remission after heterozygous CCR5Δ32 stem cell transplantation. Nature (2025). https://doi.org/10.1038/s41586-025-09893-0

  • Article
  • Published: 01 December 2025

Peluso, M.J., Sandel, D.A., Deitchman, A.N. et al. Correlates of HIV-1 control after combination immunotherapy. Nature (2025). https://doi.org/10.1038/s41586-025-09929-5
 

  • Article
  • Published: 01 December 2025

Kiani, Z., Urbach, J.M., Wisner, H. et al. CD8+ T cell stemness precedes post-intervention control of HIV viremia. Nature (2025). https://doi.org/10.1038/s41586-025-09932-w

 

doi: 10.1038/s41586-025-09893-0

英語の原文

注目の論文

「注目の論文」一覧へ戻る

Nature Japanとつながろう:

advertisement
プライバシーマーク制度