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シュプリンガー・ネイチャー フォーラムレポート

Society 5.0時代の国際教育を見据えて
―海外大学と連携して行うオンライン協働学習(COIL)とは

全てがインターネットにつながるSoceity 5.0時代には、どのような人材が求められるのだろう。それに伴い、国際教育はどう変わっていくのだろう。図書館や大学関係者に求められる、Soceity 5.0時代を見据えた準備とはいかなるものだろう。コロナ禍の中で脚光を浴びているオンライン協働学習(COIL)が、その答えのカギの1つを握っていると考えられることから、シュプリンガー・ネイチャーは、第22回図書館総合展のオンラインイベントとして、COILに関するセミナーを2020年11月6日、開催した。

COIL──期待される教育手法

連携した海外の大学との間で共同してカリキュラムを組み、それぞれの学生が一緒に受講して、遠隔で授業や調査に参加する。つまり、日本にいながら海外の大学生と知り合い、彼らとチームを組んで協力し合って授業の課題を仕上げていく。このような国際教育を可能にするのが、COIL(Collaborative Online International Learning:オンライン国際協働学習)という教育手法である。ここでいう課題には、例えば研究プロジェクトやショートムービー作成などがあるだろうが、いずれの場合であっても、海外の学生との密なコミュニケーションと協働作業は不可欠だ。従ってCOILの実践に当たり、オンライン会議やチャット、eラーニング学習プラットフォームをはじめとするさまざまなICT(情報通信技術)ツールが駆使されることになる。

COILは、2000年代半ばに米国ニューヨーク州立大学で始まった。留学とは異なり、低コストで、多くの大学生が国際体験や異文化交流を果たせることから注目された。日本で導入されたのは2014年。関西大学が全国の大学に先駆けて取り入れた。今回は、同大学でCOILの実践と普及に当たってきた第一人者、池田佳子(いけだ・けいこ)氏が講師となり、「Society 5.0時代の国際教育を見据えて―海外大学と連携して行うオンライン協働学習(COIL)とは」と題したセミナーで、COILを詳しく解説した。

COILで培われる能力

「COILが重要なのは、コロナ禍に対してばかりではない」と、池田氏。COILは、これからやってくるとされるSociety 5.0時代に合致した人材育成を可能にする。そこにこそ、COILの価値があるというのだ。

Society 5.0は、日本政府が掲げる未来社会のコンセプトであり、全てがインターネットにつながっている時代とされる。そこでは、AI(人工知能)が情報を解釈・加工して人間に提供してくれるので、人間に求められるのは情報の収集ではなく、新たな課題の発見とそれを解決するスキルとなる。もちろん、ICTツールを使いこなすスキルは必須だ。また、Society 5.0時代のバーチャルなオフィスでは、さまざまな国籍の人が働き、さまざまな文化的背景を持つ人たちとコミュニケーションを交わし、課題をこなしていくことが当たり前に行われるだろう。「そのような未来社会の模擬体験を、COILによって行うこともできるのです」と池田氏は言う。

COILでは、6〜8週間程度の活動が行われる。連携している海外大学の学生と日本の大学の学生が、親睦を深め、互いの文化を理解するという段階を経た後、チームを編成して協働学習の段階に入る。学生は能動的に活動しないと、協働学習の課題を達成できない。ICTツールを駆使し、時差や言語のハードルを乗り越え、説明したり、交渉したり、時には、説得することも経験しながら、チームで活動していく。この経験によって育成される学生の能力が、まさにSociety 5.0時代の人材に求められるものと合致するのである。

池田氏によれば、COILによる学習の成功には、教師側にも学習目標の設定や共同学習進行のための知識や経験、技術が必要とのこと。そのために関西大学では、IIGE(Institute for Innovative Global Education)を立ち上げ、教師に向けてのトレーニングやネットワーク作りを行っている。

教育者や図書館に求められるもの

オンライン授業やリモートワークの普及、進展など、コロナ禍はSociety 5.0への移行を一気に加速させた。Society 5.0へ向かう今、教育者が気を付けなくてはならないことがあるそうだ。それは、世代間でデジタルリテラシーが大きく異なること。現代の大学生は、生まれたときからITツールに囲まれている世代で、「デジタルネイティブ」と呼ばれる。Society 5.0時代に活躍するのはこの世代だ。一方、教師側は、ITの普及以前に生まれ、ITを徐々に学んでいった「デジタル移民」世代である。池田氏は、デジタルネイティブの脳は、紙の本で文章を読むよりもウェブページをスクロールして読む方がより活性化されるという、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA;米国)の研究を紹介。そして、学生への対応に際して、教師側とは脳の働き方が異なることを忘れてはならず、教師は自分の慣れ親しんだ学び方に固執することなく、新しい学習法に対して積極的になるべきだと続けた。

それを踏まえて、池田氏は、Society 5.0時代における図書館の在り方についても言及した。大学図書館の利用者はデジタルネイティブ世代であり、紙の本ばかりでなく、電子書籍を同時に用意することが重要であるが、このセミナーに参加した図書館関係者へのアンケートで見ると、所属先の図書館で書籍電子化は「ほとんど進んでいない」が55%を占めていた。

将来、デジタル化が進むと、大学がスマートキャンパス化し、その一環としてICTを活用したスマートラーニングが主流になる(もちろん、COILもその1つとなるだろう)。一方で懸念されるのが、学生がキャンパスに来なくなることだと池田氏は言う。そこで、キャンパスに来ることにメリットを感じるような仕掛け(「sticky campus」作りという)を同時に用意することも、Society 5.0時代の課題となるそうだ。それに対して、図書館にはオンラインやオフラインのリソースがあり、グループワークをはじめ、人が集まれる場所ともなり得るから、Society 5.0時代における図書館の果たす役割に注目するのは重要なことであるという。例えば、デンマーク技術大学は、図書館が人を集めるための空間となるように変革を加えつつ、スマートライブラリを実現しようとしていると池田氏。「教室でもなく、先生のいる所でもなく、図書館はキャンパスにおける第三の場所として大いに期待されているのです」。

池田教授のセミナーの動画は下記からご覧いただくことができるので、ぜひ視聴をお勧めする。

シュプリンガー・ネイチャー主催 図書館総合展オンラインセミナー「Society 5.0時代の国際教育を見据えて―海外大学と連携して行うオンライン協働学習(COIL)とは―」はこちら。

「Society 5.0時代の国際教育を見据えて―海外大学と連携して行うオンライン協働学習(COIL)とは―」

池田佳子(いけだ・けいこ)氏

池田佳子(いけだ・けいこ)氏

関西大学国際部教授、グローバル教育イノベーション推進機構(IIGE)副機構長

文:藤川良子(サイエンスライター)

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