【The Link】研究におけるQ3およびQ4ジャーナルの隠れた価値
2025年6月3日
シュプリンガーネイチャーの新しい白書「Demonstrating journal value beyond rankings(ランキングを超えたジャーナルの価値の実証)」について考察します。
2025年5月7日
The Link
著者:Christina Emery(クリスティーナ・エメリー)
学術出版の世界は常に変化しており、ジャーナルの価値はそのランキングのみによって判断することはできません。シュプリンガーネイチャーのPresident of Research (リサーチ部門プレジデント)であるSteven Inchcoombe(スティーブン・インチコーム)は、「妥当性が適切に確認された研究は、すべて価値がある」と述べています。多くの場合、ジャーナル・インパクト・ファクター(JIF:Journal Impact Factor)などのジャーナル・ランキング・システムは、研究の質に関する評価基準であるとみなされがちです。しかし、そのために、特にランキングが低く評価されているジャーナルに掲載された研究の幅広い重要性を見えにくくしてしまっている可能性があります。
シュプリンガーネイチャーの白書「Demonstrating journal value beyond rankings(ランキングを超えたジャーナルの価値の実証)」では、これまで見過ごされがちだった 第3・第4四分位(Q3とQ4*)に属するジャーナルの貢献に光を当てています。このブログでは、その要点を紹介し、これらのジャーナルが、漸進的研究や、多様な声を広めることで包括性を促進し、ニッチな分野や新興分野の発展において、いかに重要な役割を果たしているかを解説します。
革新的・探索的・漸進的研究の共有
研究者が直面するおもな課題のひとつに、被引用数(citation impact)とジャーナルランキング、特にJIFなどへの過度な依存があります。このような評価基準は、学術的な影響力を簡易的に評価できる一方で、下位ランクに含まれるジャーナルに発表された研究が持つ幅広い重要性を見えにくくしてしまうという弊害があります。白書では、「引用されやすいテーマばかりを重視すると、革新的研究や探索的研究が犠牲になる可能性がある」と指摘しています。このことは特に、研究者が関連性と影響力の高いリソースを選択する際に研究者を案内しなければならない学術図書館員にとって特に重要な課題となります。
Q3およびQ4ジャーナルには、科学の長期的な進歩にとって不可欠な基盤的な研究や漸進的研究が数多く掲載されており、従来の指標の限界を十分に理解することで、より包括的な研究の普及につながることが期待されます。
多様な研究コミュニティーのサポート
学術図書館員は、中低所得国(LMIC:low- and middle-income countries)の研究者や若手研究者(ECRs:early career researchers)など、多様な研究コミュニティーのサポートを求められることが増えています。Q3およびQ4ジャーナルは、こうした多様な研究コミュニティーの声を拾い上げる場を提供するという重要な役割を担っています。Barbara Castelnuovo氏(「AIDS Research and Therapy」誌 編集長)は、このようなジャーナルは、リソースの少ない分野の研究者が直面する独自の課題に対応するものである、と指摘しています。図書館員は、多様な背景から生まれた研究を目に触れやすくすることにより、妥当性が確認されたすべての研究が、学術環境の公平性の向上に貢献することができるのです。
図書館員にとっては、Q3およびQ4ジャーナルに発表された研究の価値をどのように示すかが課題となることもあるでしょう。白書によると、2023年にはこれらのジャーナルの利用件数が全体の22%を占め 、前年比の伸び率はQ1およびQ2ジャーナルを上回る27%に達しています。このデータは、多様な研究コミュニティーにとって、Q3およびQ4ジャーナルの論文が重要であることを明確に示しています。図書館員は、利用統計とエンゲージメント指標(ダウンロード数など)を示すことで、従来の評価指標にとらわれない研究の価値を示すことができます。そうすることが、研究機関と研究者が利用可能な知識の幅を正しく理解するための助けとなるのです。
専門コミュニティーのニーズへの対応
特定分野の小規模な学術コミュニティーに対応したQ3およびQ4ジャーナルは、理解を深め、イノベーションを推進する上で重要な知識を提供します。Sandra Hartz氏(「Ornithology Research」誌 編集長)が述べるように、「これらのジャーナルには、より多くの記述的研究や観察研究が発表されています。研究を始めたばかりの研究者や学部生などが、このようなジャーナルを選択することでしょう。また、新たな分析や仮説に必要な、基本的なデータソースとなる可能性もある」のです。さらに、Hartz氏は、特定のタイプの研究や「より局所的・地域的に重要な研究」にとって、このようなジャーナルが重要であることも指摘しています。
影響の変化に応じた進化
ジャーナルのランキングは変動しやすいため、どのジャーナルの評価も時間とともに変化する可能性があります。 白書では、当初はQ3やQ4にランキングされていたか、あるいはランキング外だったシュプリンガーネイチャーのジャーナルのうち、50%以上がその後にQ1やQ2ステータスに昇格しています。このように、ランキングは絶えず変動することから、図書館員は新しいジャーナルが各分野に貢献する可能性について研究者に伝える好機であり、学術出版に対してより細やかな理解を深める機会でもあります。
オープンアクセスを活用した格差の解消
学術コミュニティーがオープンアクセス(OA:Open Access)に移行するなか、図書館員は、研究成果への公平なアクセスを確保するという課題に直面しています。本白書では、Q3およびQ4ジャーナルがオープンアクセスの利点を活かし、特に中低所得国の実務者や政策立案者へのアクセスを提供するという点で、役割を果たしていることを指摘しています。図書館員は、オープンアクセスに向けた取り組みを支持することにより、研究と実務の間に存在する格差を解消し、重要な知識を、最も必要とする人々に確実に届けるための力となることができます。Castelnuovo氏が指摘するように、「アフリカで3人しか読むことができないジャーナルに出版しても、インパクトを与えることはできない」のです。
Q3およびQ4ジャーナルを正当に評価するために
図書館員が上記の課題に直面するということは、Q3およびQ4ジャーナルの認知度を高める重要な機会でもあります。図書館員は、最新の白書の調査結果を活用することにより、研究者に対するサポートを強化し、包括性を推進し、より豊かな学術環境を築くことができます。ランキングに関係なく、すべての正当な研究の価値を認めることは、より公平でアクセスしやすい学術環境を築くために不可欠です。
Q3およびQ4ジャーナルにの価値をより深く理解するために、白書の全文をご覧ください。学術出版の包括性を高めるアプローチを採用し、妥当性が確認されたすべての研究成果が活用の機会を得られるよう、より多様性を尊重したジャーナルのあり方を、機関として取り入れていくことが望まれます。
白書で意見を共有してくださった寄稿者のOrnithology Research編集長Sandra Maria Hartz氏、ならびにAIDS Research and Therapy編集長Patricia Price氏とBarbara Castelnuovo氏に感謝します。
* Q3 および Q4 ジャーナル:Clarivate は毎年、ジャーナル・インパクト・ファクターの順位に基づいて四分位ランキングを掲載したJournal Citation Reports を発行しています。第3・第4分位は、各カテゴリーで最も低いランクのジャーナルです。詳細については、「Journal Citation Reports: Quartile rankings and other metrics」をご覧ください
著者:Christina Emery(クリスティーナ・エメリー)
Head of Thought Leadership Programmes
ロンドンオフィスでHead of Thought Leadership Programmesを務めるクリスティーナは、オープンサイエンスや包括的な出版など、私たちのコミュニティーにとって重要なテーマについて、新しいデータや洞察を提供することで探求しています。彼女のほかの文化や言語への関心は、多様な視点の理解に役立っています。
The Link blogについて
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シュプリンガーネイチャーについて
シュプリンガーネイチャーは、世界をリードする研究出版社のひとつです。当社は、最も多くのジャーナルや書籍の出版数を誇り、オープンリサーチのパイオニアでもあります。180年以上にわたって信頼されてきた主要ブランドを通じて、研究者が新たなアイデアを見いだしてそうした発見を共有すること、医療従事者が医学の最前線に立ち続けること、教育者が学習を促進することを支援するテクノロジーを活用した製品、プラットフォーム、およびサービスを提供しています。当社は、当社が支援するコミュニティーとの協力のもと、知識を共有し、世界に対する理解を深めるための進歩に貢献していることを誇りに思っています。
詳細は、about.springernature.comおよび@SpringerNatureをご覧ください。
本プレスリリースの原本(一部を除いて)は英語であり、日本語は参考翻訳です。
英語プレスリリース:The hidden value of Q3 and Q4 journals in research