注目の論文

地球科学:南極氷河の急速な後退

Nature Geoscience

2025年11月4日

Geoscience: Rapid retreat of Antarctic glacier

Nature Geoscience

南極半島のヘクトリア氷河(Hektoria Glacier on the Antarctic Peninsula)は、2か月で少なくとも8キロメートル後退し、これは地盤に接した氷河の従来測定値の約10倍の速さだと報告する論文が、Nature Geoscience に掲載される。著者らは、この記録的な後退は、同様の環境で発生し得る、ほとんど研究されていない氷河不安定化プロセスで説明できるかもしれないと示唆している。

極地の陸に接した(浮いていない)氷河は、通常、年間数百メートルを超える後退は見られない。一方で、氷河の後退は融解により海面上昇をもたらす。したがって、極地氷河がどれほどの速さで後退し得るか、また、その後退速度に影響する要因を理解することは、地球温暖化に伴う海面上昇を正確に予測する上で重要である。

Naomi Ochwatら(コロラド大学ボルダー校〔米国〕)は、2022年2月から2023年8月にかけて南極半島東部のヘクトリア氷河上空で取得された衛星画像、航空写真、および高度計データを分析した。それにより、同氷河の後退速度は、2022年11月から12月にピークに達し、この期間に末端部が1日あたり約0.8キロメートル後退したことが判明した。この結果、2か月間で合計8.2キロメートル後退し、これはこれまで公表されたどの値よりもほぼ1桁上回るものであった。

著者らは、この期間が地域で記録された一連の地震と一致し、その波形が陸に接した氷河からの氷山崩壊と一致することを観察した。著者らは、この極端な後退速度は、氷河が陸に接した状態から浮遊状態へ移行する付近にある基盤岩の平坦部(氷河平原)へ後退した結果だと提案している。陸に接した氷河が薄くなるにつれ、氷河平原全域が海洋からの浮力に晒され、浮遊状態となり、さらなる氷河の分離が促進されたと考えられる。

著者らは、氷原は他の地域でも確認されていると指摘し、グリーンランドや南極周辺の氷河下地形をマッピングすることが、同様の急激な氷河不安定化の可能性と海面上昇への影響を評価する上で重要だと主張している。

  • Article
  • Published: 03 November 2025

Ochwat, N., Scambos, T., Anderson, R.S. et al. Record grounded glacier retreat caused by an ice plain calving process. Nat. Geosci. (2025). https://doi.org/10.1038/s41561-025-01802-4

Research Briefing: Antarctic glacier retreats at record rate due to rapid flotation and calving process
https://www.nature.com/articles/s41561-025-01835-9


 

doi: 10.1038/s41561-025-01802-4

英語の原文

注目の論文

「注目の論文」一覧へ戻る

Nature Japanとつながろう:

advertisement
プライバシーマーク制度