環境:かつて急速な氷床後退があったことを示す証拠
Nature
2023年4月6日
Environment: Past evidence of rapid ice sheet retreat
最終退氷期に後退したユーラシア氷床の後退速度が、ノルウェー大陸棚全体で1日当たり最大約600メートルに達していた可能性のあることを報告する論文が、Natureに掲載される。この研究知見は、ノルウェー大陸棚での氷床の後退速度が以前の推定値をはるかに上回っていた可能性を示唆しており、氷床底の平坦な場所が、急速な氷床後退のパルスに対して脆弱であることを浮き彫りにしている。
グリーンランド氷床と南極氷床の多くの沿岸地域は、ここ数十年間に後退し、1990年代以降の世界の海面水位の上昇に毎年約0.7 mm寄与している。海上画像を用いると、海底の退氷領域上で観測される規則的な隆起(波状隆起)の間隔に基づいて、氷床の接地線(氷河や棚氷が浮き始める地点)の後退速度を定量化できる。しかし、マッピングされている波状隆起の既存例が海底の小さな領域に限られているため、今後の接地線の後退速度と海面水位の上昇速度がなかなか明らかにならない。
今回、Christine Batchelorたちは、最終退氷期における氷床接地線の後退速度を定量化するために、ノルウェー大陸棚中部の海底の退氷領域(約3万平方キロメートル)に形成された7600以上の波状隆起の間隔を測定した。Batchelorたちは、最終退氷期において、氷床底がほぼ平坦な地域で1日当たり55~610メートルの速度で接地線が急速に後退したことを示す証拠を発見した。こうした接地線の後退速度の数値は、以前に報告された人工衛星による観測に基づく数値や海洋地質学的記録から推測された数値よりも1桁高い。最も高い後退速度は、かつての氷床底の中で最も平坦な地域で測定され、こうした地域では、接地線で最大浮力に近づくと、ほぼ瞬間的に氷床が基盤から離れ、接地線が後退したことが示唆された。
doi: 10.1038/s41586-023-05876-1
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