注目の論文

海洋生物学:南極の餌場で分かったナガスクジラの個体数の回復

Scientific Reports

2022年7月8日

Marine biology: Fin whale populations rebound in Antarctic feeding grounds

ミナミナガスクジラ(Balaenoptera physalus quoyi)の大群が、南極のかつての餌場で餌を摂取していることが観測された。この観測結果を報告するHelena Herrたちの論文が、Scientific Reports に掲載される。この報告は、1976年に捕獲が禁止されて以降、初めてのもので、この論文には、南極のエレファント島付近で餌を摂取しているナガスクジラの大群の初めての映像記録も含まれている。Herrたちは、ナガスクジラの個体数が回復していることで、海洋生態系の栄養素が回復し、他の海洋生物の回復を支援することになるかもしれないという考えを示している。

ミナミナガスクジラは、シロナガスクジラに次いで2番目に大きいナガスクジラの亜種で、南半球に生息している。19世紀には、特に南極の特定の餌場周辺で大量に捕獲されていた。1976年に捕獲が禁止されるまでに、推定70万頭以上のミナミナガスクジラが死んだとされ、かつての餌場で目撃されることは、ほとんどなくなっていた。

今回、Herrたちは、2回の調査旅行(2018年4月と2019年3月)で、ヘリコプターによる調査と映像記録を用いて、南極におけるナガスクジラの個体数に関するデータを収集した。今回の研究では、総延長3251キロメートルの探索経路上でのすべての個体と群れの目撃報告に基づいて、ナガスクジラの個体数が推定された。これらの調査で、1~4頭の群れ(100例)と活発に餌を摂取しているように見える最大150頭の並外れて大きな群れ(8例)が記録された。これまでに餌を摂取しているところを観測されたナガスクジラの群れで最も大きかったのが13頭の群れだった。

Herrたちは、南極におけるナガスクジラの個体数密度のモデルを作成し、調査海域全体でのナガスクジラの個体数が7909頭、個体数密度が1平方キロメートル当たり0.09頭と推定した。これは、世界の他の地域、例えば、米国の南カリフォルニアのナガスクジラの個体数密度(1平方キロメートル当たり約0.003頭)より高い。Herrたちは、エレファント島周辺のナガスクジラの目立ったホットスポットについて報告し、個体数が3618頭、個体数密度が1平方キロメートル当たり0.21頭と推定している。

Herrたちは、ナガスクジラの個体数が回復していることで、クジラの摂食と排泄物による栄養再循環(「クジラポンプ」)によって南極の海洋生態系が豊かになり、その結果、植物プランクトンの成長促進とオキアミの個体群増加を支援することになるという考えを示している。

doi: 10.1038/s41598-022-13798-7

「注目の論文」一覧へ戻る

プライバシーマーク制度