地質学:チロルのアイスマンが見ていたアルプス山脈の山頂に氷はなかったかもしれない
Scientific Reports
2020年12月18日
Geology: Alpine summits may have been ice-free during life of Tyrolean Iceman
アルプス山脈の標高3000~4000メートルの山頂は、チロルのアイスマン「エッツィ」が生まれる直前の約5900年前までは氷がなく、この頃から新たな氷河が形成され始めたとする研究報告が、Scientific Reports に掲載される。この知見は、アルプス山脈の中で最も標高の高い山頂(4000メートル以上)だけが、約1万1650年前に始まった現在の地質時代である完新世を通じて氷に覆われていたことを示唆している。
過去の氷河の動態が気候の変化にどのように関係しているかを解明することは、今後のアルプス山脈における氷河の減少速度を評価する上で役立つ可能性がある。これまでの研究から、アルプス山脈の標高4000メートル以上のいくつかの山頂で最も古い氷の年代は、1万1500年前と決定されていた。
今回、Pascal Bohleberたちの研究チームは、オーストリアのエッツタール・アルプスで、ヴァイスゼーシュピッツェ山頂氷河の氷から岩盤までの雪氷コア2本を標高3500メートルで掘削し、分析した。この掘削地点は、アイスマン(5100~5300年前と年代決定された)が発見された標高3210メートルの地点から12キロメートル離れたところにある。Bohleberたちは、先史時代の試料の年代を決定するための重要なツールである放射性炭素年代測定法を用いて、深さ11メートルの岩盤の直上の氷が5900年前のものであることを明らかにした。岩盤の直上の氷は、氷のない期間を経て初めて形成された氷であるため、その最大年代を決定できれば、過去の氷のない期間を特定できる。
以上の知見は、完新世に起こったアルプス山脈の標高4000メートル未満の山頂での氷河減少に前例がなかったわけではないことを示しているが、現在の氷河減少が前例のないハイペースで起こっているのかについては、さらなる情報が必要である。Bohleberたちは、現在の融解速度で推移すれば、外界の影響を受けやすい保存記録である岩盤の直上の古い氷は、今後20年以内に失われる可能性があると述べている。
doi: 10.1038/s41598-020-77518-9
注目の論文
-
12月11日
気候変動:世界的な観光産業による二酸化炭素排出量は増加し、不平等であるNature Communications
-
12月10日
Nature's 10:2024年の科学に影響を与えた10人Nature
-
12月5日
気候:GenCastは既存の気象予報を凌駕するNature
-
11月28日
古生物学:糞便の科学捜査が恐竜の台頭を記録するNature
-
11月21日
天文学:近くの恒星を周回する若いトランジット惑星が発見されるNature
-
11月21日
気候:20世紀の海水温を再考するNature