注目の論文

今後の強烈な熱帯低気圧によって米国フロリダ、オーストラリア、ペルシャ湾沿岸の一部地域が深刻な被害を受けるおそれ

Nature Climate Change

2015年9月1日

Future extreme tropical storms threaten parts of Florida, Australia and the Persian Gulf

過去の記録からだけでは予測不能な強烈な熱帯低気圧(「グレー・スワン」低気圧)の発生可能性が一部の地域で高くなるという予測を示した論文が、今週のオンライン版に掲載される。こうした強烈な熱帯低気圧のリスクが高まることで、ケアンズ(オーストラリア)、タンパ(米国フロリダ州)やペルシャ湾沿岸の都市が影響を受けることが予測されている。

めったに発生しないが、もたらす影響が甚大で予測不能な暴風は「ブラック・スワン」として記述されてきた。これに対し、グレー・スワンは、過去の記録だけに基づく想定の範囲を超える壊滅的な高潮を引き起こすことがある強烈な熱帯低気圧のことで、物理的知識を過去のデータと併用することで予測が可能になると考えられている。

今回、Ning LinとKerry Emanuelは、3か所の非常に脆弱な沿岸地域について、グレー・スワン事象による高潮のリスクをモデル化した。その結果、熱帯低気圧の記録のないペルシャ湾沿岸でのリスクが高くなる可能性が判明し、タンパとケアンズに対する脅威もこれまでの予想を超えることが分かった。今回の解析では、グレー・スワン低気圧が現在のタンパ、ケアンズ、ドバイを襲うというシミュレーションが行われ、それによる高潮が6 m(タンパ)、5.7 m(ケアンズ)、4 m(ドバイ)に達することが明らかになった。また、このシミュレーションでは、こうした高潮が21世紀末までにドバイで最大7 m、タンパで最大11 mに達する可能性も示された。

グレー・スワンによる高潮は、今後数十年間に激しさを増すだけでなく、そうした高潮の発生リスクが気候変動のために高くなることが予測されている。そのため、タンパに6 mの高潮をもたらすグレー・スワン低気圧の発生周期が現在の約10,000年から21世紀半ばには3,100~1,100年となり、21世紀末頃には2,500~700年まで短縮されることが予想されている。そうなると、21世紀末には、1年間にグレー・スワン低気圧が発生する確率が現在の約4~14倍に達する。

doi: 10.1038/nclimate2777

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