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力を結集してSDGsに挑む

​「持続可能な開発目標(SDGs)」が人々に示す方向性とは何か。誰一人取り残さないというSDGsの原則の下、多様な人々との協創はどうすれば可能なのか。東京大学の藤井輝夫(ふじい・てるお)総長と、シュプリンガー・ネイチャーのSDGプログラム長であるエド・ガーストナー(Ed Gerstner)が、共同イベントの開催を前に、お互いの組織の取り組みについて語り合った。

In cooperation with Springer Nature

Nastco/iStock/Getty

2015年に国連加盟国全193カ国の全会一致で採択された17の「持続可能な開発目標(SDGs)」は、人類と地球が直面する主要な課題を明確化し、より良い世界を実現するための大胆な展望を提示している。これらの目標を達成するためには、多様な人々や機関の創意工夫、そして専門知識の活用が必要である。

第一線で活躍する研究者を擁し、研究活動を推進している東京大学と、研究者が得た最新の知見を世界に向けて発信している科学出版社のシュプリンガー・ネイチャーでは、研究プロセスにおける立ち位置が大きく異なる。しかし、2つの組織はSDGsへの取り組みにおいて共通の展望を持っている。それを深める公開討論の場として、2022年3月29日に共同イベント「SDGsシンポジウム2022:エネルギーシステムから考える持続可能な開発目標間の関係」がオンライン開催されることとなった。なお、このイベントは英語で行われるが、日本語同時通訳が利用可能だ。

このイベントでは、エネルギーシステムが複数のSDGsとどのように交わっているかを、SDG7(エネルギーをみんなに そしてクリーンに)、SDG9(産業と技術革新の基盤をつくろう)、SDG12(つくる責任 つかう責任)、SDG13(気候変動に具体的な対策を)に関連するターゲットを中心に探っていく。当日は、2つの基調講演と、エネルギー分野の5人の専門家によるパネルディスカッションが予定されている。

イベントに先立ち、東京大学総長の藤井輝夫氏と、シュプリンガー・ネイチャーのジャーナルポリシーおよび戦略ディレクターのエド・ガーストナーが、SDGsの達成に向けてそれぞれの組織が取っている戦略について意見を交わした。

多様な人々を集結させる

今回の対談は、「SDGsという世界にとって重要な共通目標は、その達成に向けて努力する多様な人々を集結させることができる」という思想に貫かれていた。ガーストナーは、「私たちは人類の存亡に関わる問題に直面しています」と言う。「けれどもこれは私たちが一致団結する機会でもあります」。

私たちは人類の存亡に関わる問題に直面しています。けれどもこれは、私たちが一致団結する機会でもあります。

ガーストナーは、このことを個人的に実感する出来事を経験したと言う。公益に貢献し、世界を変える機会を与えられたならば、シュプリンガー・ネイチャーの同僚たちは、彼らの時間と能力を惜しみなく差し出してくれることを知ったのだ。「彼らは非常に忙しいので、私がSDGsに取り組むようになる前は、私のプロジェクトに協力を求めても断られることがありました。けれども私がSDGsの仕事を始めると、依頼に快く応じてくれるようになったのです。誰もが、世界をより良くするために協力したいと思っているのです」。ガーストナーは、同僚が自分に協力してくれるようになった理由の1つは、SDGsに関しては私たち全員が「ステークホルダー(利害関係者)」であるからだと考えている。「私たちは皆、地球を守ることに興味があるのです」。

藤井氏はこれに同意し、1人ひとりがSDGsのために行う多様な貢献を、オーケストラのさまざまな楽器に例えた。「オーケストラの音楽は、単一のメロディーではなく、複数のパートが奏でるハーモニーです。異なる背景や専門知識を持つ人々が同じ問題について話し合うことで、新しいアイデアを生み出す豊かな土壌ができます。本学の研究者1人ひとりが、この議論の場に重要な貢献をすることができるのです」。東京大学は、対話、多様性と包摂性、幅広い社会的インパクトを促進することの重要性を認識し、2021年9月に大学が目指すべき理念や方向性を巡る基本方針として「UTokyo Compass」を公表した。その内容は、「多様性の海へ:対話が創造する未来」というモットーに集約されている。

異なる背景や専門知識を持つ人々が同じ問題について話し合うことで、新しいアイデアを生み出す豊かな土壌ができます。

SDGsが提起する課題を解決するためには、利用可能な全ての資源を結集する必要がある。ガーストナーは、「SDGsの難しさの1つは、目標の幅が非常に広い上に相互に複雑に関連しているので、1つの分野だけでは達成できない点にあります」と指摘する。「物理学者だけでも、化学者だけでも、生物学者だけでも、工学者だけでも解決はできないでしょう。人文学者や社会科学者も含めて、全ての研究者が力を合わせる必要があります」。

ガーストナーは、SDGsが提起する課題の学際性は、最近の学生の考え方の変化にも映し出されていると考えている。「1990年代の学生は、物理学者や化学者、生物学者になるために大学に行っていました。けれども最近は、問題を解決する能力を身に付けるために大学に行く学生が増えています。こうした学生は、人類が直面している問題を解決するために必要だからという理由で、物理学や化学、工学、計算機科学、数学、生物学などを学ぼうとするのです」。

SDGs研究の具体例

藤井氏もガーストナーも、それぞれの組織のリーダーとして、SDGsを大局的な視点で捉えている。しかし、SDGsを達成するための超学際的な研究の具体例を検討することも有益だ。その点、藤井氏は絶好の立場にいる。工学者である彼の研究は、マイクロ流体システムと、その深海研究への応用に焦点を置いているからだ。藤井氏の大規模海洋観測(Ocean Monitoring Network Initiative:OMNI)プロジェクトは、彼自身の海中工学研究を基礎にして立ち上げられた学際的なプロジェクトで、誰でも海に持ち込めるような、自由度が高く低コストの海洋観測センサーを開発している。このプロジェクトの目的は、誰もが海洋学研究に参加できるようなプラットフォームを創造することにある。

藤井氏は、海には私たちが知らないことがまだまだたくさんあると言う。例えば、月面の精細な地図は完成しているのに、地球の海底の地形は20%程度しか測量されていない。しかし、海洋管理を最適化するためには測定が不可欠であるのみならず、こうしたパラメーターは気候変動や他の現象のモデルに影響を及ぼす。ガーストナーが言うように、「測定できなければ解決もできない」のだ。

海洋の測定を行う際には、その広大さが問題になる。地球規模で海洋状況をモニタリングする国際プロジェクト「アルゴ計画」では、世界の海に約4000台の観測用ブイを浮かべているが、平均すると300km四方に1台しかないことになる。高性能のセンサーは製造コストが高いため、OMNIプロジェクトでは、高校生に作り方を教えられる程度の、小型で安価なセンシングプラットフォームの開発を目指している。藤井氏は、こうすることでデータポイントを大幅に増やし、世界の海の現状を格段に詳しく把握することが可能になると考えている。そして、重要なことがもう1つあると言う。「このプロジェクトを通じて、より多くの人が、海の健康状態を自分自身の問題として捉えるようになるということです」。つまり、このプロジェクトは最先端の科学を使って重要な問題に取り組み、コミュニティを巻き込み、かつ比較的低コストで実施することができる。ガーストナーはそう指摘し、SDGsへの取り組みとして全ての条件を満たしていると評価する。このプラットフォームは、地球の健康をモニターし、複数のSDGsの達成に貢献することだろう。海洋が重要な役割を担っていることは、SDG14(海の豊かさを守ろう)、SDG2(飢餓をゼロに)、SDG13(気候変動に具体的な対策を)などにおいても明らかだ。

壁を低くし、形勢を逆転させる

SDGsが大学の方針や実務の指針としても重要性を増している今、各大学は、SDGsの実施を支援するために、研究の進め方や、より広い意味での大学の運営や社会との関わり方を見直すことを迫られている。このことは、「UTokyo Compass」が掲げる基本理念の1つである、東京大学を「世界の誰もが来たくなる大学」として、魅力を増大させることに反映されている。これは、社会により開かれた大学を目指すことを意味している。「今は大学そのものも、物理的に高い壁に囲まれています」と藤井氏は言う。「けれどもこれからは、大学を囲む心理的な壁を取り払い、社会に広がっていくことで、あらゆる人々が集い、対話し、新たな知を創出する場にしていきたいのです。社会のさまざまな背景を持つ多様な人々とともに、大学という場を総合的に活用していく工夫を凝らしていきます。対話と信頼の相互連環こそが、新たな未来を拓くと私は信じています」。

東京大学のSDGs研究の理念は、「地球と人類社会の未来に貢献する協創活動を活性化させるため、その方向性が合致するSDGs (Sustainable Development Goals) を最大限に活用する」とした、未来社会協創推進本部(UTokyo Future Society Initiative;UTokyo FSI)の活動に表れている。2017年に設置されたFSIには現在、SDGsに取り組むプロジェクトが200以上も登録されている。世界のSDGs研究成果に占めるシェアと質の点で、日本のランキングは過去10年間でじわじわと低下している1。東京大学がSDGsを重視することは、この傾向を逆転させることにもつながるだろう。彼らの努力は実を結びつつあり、東京大学が2021年に出版したSDGsに関する論文の数は、日本国内のどの機関よりも多い*

楽観的である理由

SDGsが提起する課題は非常に困難だが、ガーストナーも藤井氏も、将来を楽観的に見ている。

ガーストナーは、「シュプリンガー・ネイチャーがSDGプログラムを立ち上げたのは、学問と研究がもたらす変革の力を信じる者として、世界をより良い場所にすることが我々の義務であると考えたからです。つまり、地球を守るためにできる限りのことをする、ということなのです」と言う。「社内の全員がSDGsを支持していることは本当に心強く、やる気がますます湧いてきました」。

藤井氏は、科学技術の進歩の速さに勇気付けられていると言い、15世紀の活版印刷術の発明によって知識の伝播に革命が起きたことを例に挙げてこう語る。「今日の技術は驚異的な速さで変化しています。私たちは科学的知識の普及を通じて、短期間で大きな変化を起こすことができます。ですから私はとても楽観的なのです」。

インパクトのためのパートナーシップ

社会に幅広くインパクトを与えてSDGsの達成に向けた前進を促すためには、パートナーシップと、超学際的な協力と、包摂性が必要であることが、藤井氏とガーストナーによる今回の対談から分かる。このような考え方は、近く開催されるエネルギーシステムとSDGsの交点に関する共同シンポジウムを含め、東京大学とシュプリンガー・ネイチャーの長年にわたる協力関係の中心に位置付けられてきたものだ。

原文:2022-02-27 | The Source: Coming together to tackle the SDGs

2022年3月29日に開催予定の「SDGsシンポジウム2022:エネルギーシステムから考える持続可能な開発目標間の関係」の詳細と参加登録については、こちらのサイトを参照されたい。

*学術文献データベースDimensionsに収録された論文についての分析。

参考文献

  1. Wastl, Juergen et al. https://doi.org/10.6084/m9.figshare.12200081.v2 (Digital Science. Report., 2020).

対談者プロフィール

藤井輝夫(ふじい・てるお)

第31代東京大学総長。専門分野は応用マイクロ流体システムおよび海中工学。

1993年に東京大学で博士号(工学)を取得後、東京大学生産技術研究所(IIS)、理化学研究所での勤務を経て、2007年 東京大学IIS教授、2015〜2018年 同所長。2007〜2014年には、IISとフランス国立科学研究センター(CNRS)の共同研究組織LIMMS-CNRS/IISの共同ディレクターも務める。2019年 同大学の理事・副学長(財務、社会連携・産学官協創担当)を経て、2021年4月1日より現職(任期は6年)。

その他、2005〜2007年 文部科学省参与、2017〜2019年 CBMS(Chemical and Biological Microsystems Society)会長、2021年3月より内閣府総合科学技術・イノベーション会議有識者議員(非常勤)を務める。

藤井輝夫

エド・ガーストナー(Ed Gerstner)

ジャーナルポリシーおよび戦略ディレクター。SDGプログラム運営グループ長。

シュプリンガー・ネイチャーのジャーナルポートフォリオ全体の方針と戦略の策定および実施を担当。また、SDGプログラム運営グループ長として、SDGsの達成に向けたソリューションを模索する研究および研究者への支援の調整・強化を担当している。

シドニー大学で博士号(物理学)取得後、ケンブリッジ大学、シドニー大学、サリー大学で数年間ポスドク研究員を務める。ネイチャー・パブリッシング・グループ(現 ネイチャー・ポートフォリオ)入社後、16年以上にわたり編集者としてNatureNature MaterialsNature PhysicsNature Communications に携わる。2012年には、同社初の中国本土オフィス(上海)の設立に携わる。2019年より現職。

Ed Gerstner
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