神経科学:麻痺発症後の運動の回復
Nature
2023年5月25日
Neuroscience: Restoring movement after paralysis
脳と脊髄の間の情報伝達を回復させる脳皮質インプラントが作製され、腕や脚に麻痺のある患者が自然に立ったり、歩いたりする上で役立ったことが明らかになった。このことを報告する論文が、今週、Natureに掲載される。今回の研究では、このデバイスが患者の神経学的回復を向上させることも確認され、この患者は、インプラントのスイッチを切った状態でも松葉づえをついて歩けるようになった。こうした知見により、麻痺発症後の自然な運動制御を回復させる仕組みが確立された。
脊髄損傷は、歩行を制御する脊髄領域と脳の間の情報伝達を遮断し、麻痺を引き起こすことがある。この種の麻痺を発症した患者の運動を回復させる方法としては、これまでに、脊髄領域に電気刺激を与えて、立ったり歩いたりできるようにするというものが発表されている。しかし、この方法では、モーションセンサーを装着する必要があり、センサーを装着した患者は、地形や必要条件の変化に脚の動きを十分に適応させることができなかった。これに対して、患者の脳と脊髄をデジタルで接続すれば、筋活動のタイミングと振幅の制御を向上させることができ、患者の起立と歩行の自然で適応的な制御を回復させられるかもしれない。
Grégoire Courtineらは、歩行に関係する脊髄領域と脳を直接接続する脳–脊髄インターフェース(BSI)を検証した。このBSIは、埋め込み型の記録・刺激システムによって構成されており、数分以内に校正でき、自宅で指導を受けずに使用する場合であっても、その信頼性と安定性が1年以上保持された。患者の報告によると、BSIは患者の脚の動きを自然に制御し、患者は、立ったり、歩いたり、階段を上ったりでき、複雑な地形を通り抜けることもできた。さらに、このBSIを用いた神経リハビリテーションでは、患者の神経学的回復が向上し、患者はBSIのスイッチを切ったときでも、松葉づえをついて地面を歩く能力を取り戻した。
脳と脊髄の間のデジタルブリッジという発想は、神経疾患を原因とする運動障害の治療を向上させるために役立つ可能性がある。
doi: 10.1038/s41586-023-06094-5
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