注目の論文

薬理学:タマゴテングダケ中毒の解毒剤になるかもしれない

Nature Communications

2023年5月17日

Pharmacology: A potential antidote for death cap mushroom poisoning

米国食品医薬品局(FDA)が承認した診断試薬「インドシアニングリーン(ICG)」が、世界で最も有毒なキノコであるタマゴテングダケが産生する毒素(αアマニチン)の毒性を軽減することが、ヒト細胞株とマウスを使った実験で明らかになった。この知見は、ICGが、世界中のキノコ関連死の90%以上で原因となっているタマゴテングダケ中毒の解毒剤となる可能性を示唆している。このことを報告する論文が、Nature Communicationsに掲載される。

キノコ中毒は、全世界で発生する食中毒事件・事故における主要な死亡原因であり、中国だけでも、2010~2020年に約4万症例と788人の死亡が報告されている。αアマニチンは、タマゴテングダケが産生する主要な毒素であり、タマゴテングダケを食べると、肝臓や腎臓に回復不能な障害が高率で発生する。αアマニチンの致死効果は明らかになっているが、その毒性の分子機構が正確に突き止められておらず、現在のところ、特異的な解毒剤は入手できない。

今回、Qiaoping Wangらは、αアマニチンに対する分子標的を特定するためにゲノム規模のCRISPRスクリーニングを行い、N-グリカンの生合成経路の重要な構成要素であるSTT3Bタンパク質がαアマニチンの毒性に必要なことを明らかにした。N-グリカン生合成経路は、タンパク質の折り畳みと輸送に寄与し、数多くの生物学的認識事象に関係している。Wangらは、FDA承認薬のバーチャルスクリーニングを行って、ICGがSTT3B阻害剤であり、肝毒性の予防効果を発揮する可能性があることを明らかにした。また、ICGは、αアマニチンに曝露されたヒト細胞系とマウスの生存確率を高めることも分かった。

ICGがαアマニチンを阻害する機構を正確に理解し、ヒトに使用する場合の安全性を評価するには、さらなる研究が必要とされる。また、Wangらは、ゲノム規模のCRISPRスクリーニングと薬剤のバーチャルスクリーニングを組み合わせる方法は、αアマニチン以外にもヒトに毒性を示して医療が必要になるような物質に対する新しい解毒剤を迅速に特定するために役立つ可能性があるという見方を示している。

doi: 10.1038/s41467-023-37714-3

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