ウイルス学:ヒト気道外植片の培養におけるオミクロン株の複製
Nature
2022年2月2日
Virology: Omicron replication in explant cultures of human respiratory tract
ヒトの肺につながっている気道を構成する気管支組織における重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)オミクロン変異株の複製は、他のSARS-CoV-2の懸念される変異株(VOC)よりも速く進むが、肺における複製効率は低下したことが明らかになった。今回の研究で得られた知見は、オミクロン株による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化の根底にある機構の解明に役立つ可能性がある。これらの研究知見を報告する論文が、Nature に掲載される。
今回、Michael Chanたちの研究グループは、ヒトの気管支と肺の組織培養において、SARS-CoV-2野生型とその変異株(D614G、アルファ株、ベータ株、デルタ株とオミクロン株)の複製能を比較した。オミクロン株は、感染の翌日と翌々日に気道(気管から肺に空気を運ぶ管)において、他のすべてのSARS-CoV-2変異株よりもかなり速い速度(70倍)で複製した。肺組織では、複製効率が低かった。
オミクロン株に感染した細胞の種類は、他の変異株と差はなかったが、SARS-CoV-2感染が宿主のプロテアーゼに依存する度合いに差が認められ、オミクロン株の方が、カテプシンタンパク質の阻害に対する感受性が高く、このことは、オミクロン株が他の変異株よりもエンドサイトーシス経路による細胞侵入を有効に利用していることを示しているかもしれない。
誘導気道におけるオミクロン株の複製速度が速いことが、SARS-CoV-2の伝播に影響するかどうかは明らかでない。また、オミクロン株は、自然感染やワクチンによる免疫を回避しており、このことが、感染速度の上昇に寄与している可能性が非常に高い。しかし、オミクロン株の肺における複製が抑制されていることが、免疫組織化学的解析によって確認されており、このことは、オミクロン株がデルタ株よりもCOVID-19の症状が軽度なものとなる可能性を示唆している。ただし、さらなる研究が必要である。
doi: 10.1038/s41586-022-04479-6
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