注目の論文

人間行動:心臓の拍動に応じて人種的偏見の表現が変化する

Nature Communications

2017年1月18日

Human behaviour: Racial biases change in a heartbeat

それぞれの心拍で人間の心臓から脳に送られる信号によって一部の人種に対する偏見の表現が強くなったり弱くなったりする可能性を報告する論文が掲載される。今回の研究では、もともと存在している人種的偏見に基づく脅威の認識が、脅威情報の処理が心臓の収縮期に起こるのか拡張期に起こるのかによって異なることが明らかになった。

黒人が害を及ぼさない物体を所持しているという状況で、この物体が武器と誤認される確率は、白人が所持する場合より高いことが過去の研究で実証されている。また、黒人の顔を見せられた被験者の一部で脳内の脅威シグナルの伝達が活性化し、この人種的偏見が不安状態やストレス状態において誇張されることが複数の研究で示唆されている。さらに、脳の活動に影響する心血管の覚醒レベルに応じて、情動的刺激が認識される強度が変わることも明らかになっている。

今回、Manos Tsakiris、Ruben Azevedoたちの研究チームは、心臓から脳に送られる信号が人種的偏見の表現に及ぼす影響を調べるために、人種的偏見を測定するために一般的に使用される試験(weapons identification taskとfirst person shooter task)に参加した32人の被験者の心拍を監視した。それぞれの検査では、あらかじめ白人の顔を見せられた被験者と黒人の顔を見せられた被験者に刺激(拳銃(標的)または携帯電話、手工具などの害を及ぼさない物体)を実際に与えて、この刺激を武器と誤認した者が占める割合を比較した。その結果、黒人の顔によるプライミング刺激を与えられた被験者の方が武器と誤認することが多いことが判明した。今回の研究では、このプライミング刺激を与える時期が被験者の心拍との関係で注意深く制御された。そして、Tsakirisたちは、黒人が害を及ぼさない物体を所持している場合にその物体を武器と誤認する確率が高くなるという人種的偏見の表現が主に観察されるのは、心臓の拡張期ではなく収縮期に顔の刺激が提示された場合であることを明らかにした。

以上の研究結果により、すでに知られている脳の周辺の身体部分から脳へのシグナル伝達の機能が、人種に関する否定的固定観念の表現において果たす役割まで拡張した。

doi: 10.1038/ncomms13854

「注目の論文」一覧へ戻る

プライバシーマーク制度