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  • アストロサイトに見つかった抑制性シナプス制御機能

    ニューロンはシナプスを介して情報をやりとりし、複雑な神経回路を作り上げる。脳内に150億以上あるとされるシナプスの保護を担うのは、グリア細胞だ。ところが近年、この細胞がシナプスの保護のみならずシナプスの形成や再編成にも、従来考えられてきた以上に積極的に関与している、とする報告が相次いでいる。髙野哲也・慶應義塾大学医学部助教らは、この細胞が2つのニューロンを橋渡しする細胞接着構造(三者間シナプス)に着目し、機能分子の網羅的解析を行うことで、アストロサイトの役割の1つに抑制性シナプスを調節する機能があることを見いだした。

    2021年4月号

  • 騒音や人工光による感覚汚染の影響を市民科学者データを活用して解明

    騒音や人工光は野生生物の生息に、どのような影響を与えているのだろうか。生物多様性の保全を考えていく上で、それを知ることは極めて重要である。市民科学者によって収集された全米レベルの大規模な観察データを利用し、鳥の繁殖活動に及ぼす音や光の影響が解明されつつある。研究を主導した先崎理之・北海道大学大学院助教に話を聞いた。

    2021年3月号

  • 腸幹細胞の維持にはIFNシグナルの抑制が重要

    幹細胞の維持に微小環境(ニッチ)が重要なことは既知だが、幹細胞の自己複製能と分化能が良いバランスで維持されている仕組みは、よく分かっていない。樗木俊聡・東京医科歯科大学教授らはこのほど、体内で常に作られている微量のインターフェロン(IFN)が腸幹細胞にとって大きな生理的ストレスになることを発見。正常な腸上皮細胞はそれを回避していることも見いだした。

    2021年2月号

  • 金星大気にホスフィンか? 地球からリモートセンシングで検出

    地球の90倍もの厚さの大気を持つ金星。地球とほぼ同じ大きさと密度でありながら、大気の組成や動態が地球とは大きく異なる理由は未解明のままだ。その謎に迫る金星探査機「あかつき」による観測データの他、地球上からの望遠鏡観測でも、貴重な情報が得られ始めている。後者の方法で得られた金星大気のデータについて、研究に参加した佐川英夫・京都産業大学教授に話を聞いた。

    2020年12月号

  • 統計学と情報学で病気を解き明かし、個々の患者に合った医療へ

    多数の遺伝要因が積み重なって起こる「複雑疾患(多因子疾患)」。糖尿病や心筋梗塞、統合失調症など、大半の病気がそうだ。そのような病気の解析手法である「ゲノムワイド関連解析(GWAS)」を用いて、次々と研究成果を発表してきた鎌谷洋一郎・東京大学大学院メディカル情報生命専攻教授。GWAS研究は一時の停滞期からなぜ再び注目を浴びるようになったのか。世界の研究の潮流と今後の抱負について話を聞いた。

    2020年11月号

  • イネ茎伸長のアクセルとブレーキを担う2遺伝子を発見し、伸長の仕組みを解明!

    イネの遺伝子レベルの研究は盛んで、多種多様だ。だが茎が伸びる仕組みについては、茎を伸ばす植物ホルモン「ジベレリン」の存在が知られているものの、なぜジベレリンがあると茎が伸長するのかは不明だった。名古屋大学の永井啓祐助教、芦苅基行教授らは、洪水が起きると瞬く間に茎を伸ばす浮きイネを使って、茎伸長のアクセル役とブレーキ役を担う2つの遺伝子を突き止めた。

    2020年10月号

  • 定説破るがん遺伝子の「複数変異」から新たな発がん機構

    がん遺伝子やがん抑制遺伝子には、変異によりがん化につながるものが多数知られているが、がん遺伝子の変異はこれまで「ほぼ決まった領域で生じ、単独」とされてきた。国立がん研究センターの片岡圭亮分野長らはこのほど、「2つ目の変異が入りやすいがん遺伝子」を発見。変異の生じ方を調べていくと、新たな発がん機構が見えてきた。

    2020年8月号

  • 真核生物につながるアーキアの培養とゲノム解析に成功!

    約20億年前に現れたとされる真核生物。海洋研究開発機構(JAMSTEC)の井町寛之氏と、産業技術総合研究所(AIST)のMasaru K. Nobu(延優)氏は、その誕生につながったとされるアスガルド類アーキアの培養を世界で初めて成功させ、完全長のゲノム配列も手に入れた。そこから、アーキアの生態と真核生物への進化について、驚くべき知見が複数もたらされた。

    2020年6月号

  • 液–液相分離でオートファジーが動きだす

    細胞内で起こる液-液相分離という物理現象が注目されている。細胞の活動に大きな影響を及ぼしていることが分かってきたからだ。そして今回、オートファジーの開始タンパク質の働きに対しても、重要な役割を担うことが明らかになってきた。オートファジー研究の新しい局面を開いた微生物化学研究所の野田展生部長と藤岡優子上級研究員に話を聞いた。

    2020年5月号

  • 異常ミトコンドリア除去を誘導する遺伝子発見

    分解する相手を選ばないオートファジー(自食作用)に対し、特定の細胞小器官や物質を選択的に処理する「選択的オートファジー」があることも分かってきた。ミトコンドリアの選択的オートファジー「マイトファジー」について、分子機構の解明を進めた星野温・京都府立医科大学大学院助教らは、これまで知られていなかった遺伝子がカギを握っていることを突き止め、この遺伝子の変異が筋疾患(ミオパチー)を引き起こすことも見いだした。

    2020年3月号

  • 全ての人に安全な水を

    水道水のように容易に手に入る、安価で安全な水は、感染症を防ぎ、子どもに学校に行く機会を与え、生活の向上や女性の社会進出につながる。国連機関でもこの50年、いろいろ取り組んできた。その1つが2000年に採択されたミレニアム開発目標(MDGs)7C「2015年までに、安全な飲料水と基礎的な衛生設備を継続的に利用できない人々の割合を半減させる」だ。この目標はMDGsの中でもいち早く達成された。今回、(株)TECインターナショナルの福田紫瑞紀さん、沖大幹・東京大学教授/国際連合大学上級副学長、乃田啓吾・岐阜大学助教が、水目標達成の背景を明らかにし、Nature Sustainability 5月号に発表した1。水問題だけでなく、今後の持続可能な開発目標(SDGs)など国際開発目標に取り組む上でも、非常に興味深い論文である。

    2019年9月号

  • 記憶T細胞形成のカギを握るのは、脂質代謝

    麻疹やおたふく風邪などは、一度かかると、再び発症することはほとんどない。これは、免疫細胞が病原体のタンパク質を記憶していて、再感染の際に速やかに応答しているからだ。このような免疫記憶の中心となる記憶T細胞の産生に脂肪酸代謝が関わっていることを、千葉大学大学院医学研究院教授で研究院長の中山俊憲氏と、かずさDNA研究所オミックス医科学研究室室長の遠藤裕介氏らの研究グループが発見し、新創刊のNature Metabolism 2月号に発表した1

    2019年8月号

  • 脳梗塞慢性期、制御性T細胞が神経を保護!

    死に至るリスクが高く、日本に100万人以上の患者がいるとされる脳血管障害。そのうち約75%は、脳の血流が途絶えて神経細胞が死に至る脳梗塞だ。現在のところ、治療は発症後、間もない急性期のみで、それを逃すと予後が厳しくなる。免疫学の立場から脳梗塞による炎症の惹起や収束のメカニズムを検討してきた慶應義塾大学医学部 微生物学・免疫学教室の吉村昭彦教授と伊藤美菜子講師は、慢性期になると脳に制御性T細胞が集積すること、それらの細胞が自らのセロトニン受容体などを介して増殖・活性化し、神経症状の改善に寄与することを突き止めた。

    2019年5月号

  • サメのゲノムが挑む、進化と自然の謎

    軟骨魚類板鰓(ばんさい)類のサメ類は、その名の通り、硬い骨を持たない。ヒトの属する硬骨脊椎動物の祖先とは、4億5000万年前に分岐した。日本近海には、映画で有名なホホジロザメ、巨大なジンベエザメ、ダイバーに人気のシュモクザメをはじめ、約150種が生息している。このほど、理化学研究所生命機能科学研究センター分子配列比較解析ユニットの工樂樹洋ユニットリーダーらを中心とする、沖縄美ら海水族館、海遊館、大阪市立大学、東京大学の共同研究チームが、ジンベエザメ、トラザメ、イヌザメの全ゲノムを解析し、脊椎動物の進化やサメの生態についてさまざまな知見を得た。成果は、Nature Ecology & Evolution 11月号に発表された。

    2019年2月号

  • 逆向きの骨代謝経路を発見! 骨形成に寄与

    骨は、破壊・吸収と新生をバランスよく行うことで、構造と機能を保っている。これまで、こうした骨代謝のカギは「骨細胞由来の生理活性物質(RANKL)」から「破骨細胞にある受容体(RANK)」へのシグナル入力にあるとされてきた。今回、東京大学医学部附属病院 薬剤部の本間雅講師らは、従来とは逆向きのシグナル伝達、すなわち、破骨細胞のRANKがリガンドで、骨芽細胞のRANKLが受容体として機能する経路があることを明らかにした。さらに、この経路が骨芽細胞の分化成熟と骨形成に寄与していることも突き止め、骨粗しょう症の新たな創薬ターゲットになる可能性を見いだした。

    2019年1月号

  • 光で活性化されるタンパク質の新型を発見

    ロドプシンは、光を受容して反応するタンパク質である。ヒトの眼の網膜で働いたり、オプトジェネティクス(光遺伝学)技術に利用されたりすることで知られている。ロドプシンには、タイプ1(微生物型)とタイプ2(動物型)の2種類が存在するというのがこれまでの通説だったが、今回、それを覆す発見があった。第3のタイプのロドプシン、「ヘリオロドプシン」が、神取秀樹・名古屋工業大学大学院教授と井上圭一・東京大学准教授らにより報告されたのである。

    2018年11月号

  • 最遠方銀河からのメッセージ

    宇宙からはさまざまな電磁波がやってくる。生まれたての星から、寿命を終えた星の残骸から、そして宇宙創生期の天体から。天文学者たちは、こうした電磁波のメッセージを解読し、宇宙の成り立ちを解き明かす。このほど、MACS1149-JD1という銀河が132.8億光年離れた最遠方の銀河であることを、大阪産業大学の井上昭雄准教授と橋本拓也研究員を中心とする研究チームが同定し、Nature 5月17日号に発表した。さらに、この銀河では、ビッグバンから2.5億年後にはすでに星が形成されていたことも突き止めた。

    2018年10月号

  • 根から葉へと乾燥を知らせる物質の正体

    植物は、自然界のさまざまな環境の変化にさらされながら生長していかなければならない。そのためには、環境の変化を常にモニターし、その情報を植物体の各器官に的確に伝える仕組みが必要だ。理化学研究所環境資源科学研究センターの高橋史憲研究員と篠崎一雄センター長らは、根の細胞が乾燥を察知するとペプチドを合成して分泌し、それが維管束を移動して葉に伝わると、植物体は乾燥に備えて準備するようになることを明らかにし、Nature で報告した。

    2018年9月号

  • シナプス強度を制御する分子機序を解明

    脳機能を支える神経回路は、神経細胞同士がシナプスというつなぎ目を介して複雑につながることで作られる。脳の情報や指令は、神経細胞内においては電気的に伝達されるが、シナプスでは神経伝達物質を内包した小胞を介して化学的に伝達される。しかし、伝達の強度を左右する小胞放出の場の数や、場の形成過程などは不明であった。このほど、廣瀬謙造・東京大学大学院医学系研究科教授らは、独自に開発した高感度のイメージング技術に分子の超解像可視化技術を組み合わせることで、場の形成に関わる分子実体の解明に成功した。

    2018年8月号

  • スピンを活用し、ひずみ方向検知に初成功 ― 柔らかいセンサー開発に道

    磁性体(磁石)が変形すると磁化方向が変わる性質を利用して、変形の方向を検出できる柔らかいひずみセンサーの動作実証に、東京大学大学院工学系研究科准教授の千葉大地さん、同研究科博士課程2年の太田進也さん、株式会社村田製作所シニアプリンシパルリサーチャーの安藤陽さんの3人が世界で初めて成功し、新創刊のNature Electronics 2月号に発表した。電子の磁気的性質であるスピンを活用する「スピントロニクス」と、折り曲げることができる電子部品を創造する「フレキシブルエレクトロニクス」を融合した新しいデバイス開発に道を開くものだ。3人に研究の背景、今後の方向性などについて聞いた。

    2018年7月号