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最遠方銀河からのメッセージ

井上 昭雄、橋本 拓也

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 10 | doi : 10.1038/ndigest.2018.181017

宇宙からはさまざまな電磁波がやってくる。生まれたての星から、寿命を終えた星の残骸から、そして宇宙創生期の天体から。天文学者たちは、こうした電磁波のメッセージを解読し、宇宙の成り立ちを解き明かす。このほど、MACS1149-JD1という銀河が132.8億光年離れた最遠方の銀河であることを、大阪産業大学の井上昭雄准教授と橋本拓也研究員を中心とする研究チームが同定し、Nature 5月17日号に発表した。さらに、この銀河では、ビッグバンから2.5億年後にはすでに星が形成されていたことも突き止めた。

–– まず、遠方銀河研究のきっかけを教えてください。

井上: 天文学を始めるきっかけは、高校生の頃に『ホーキング、宇宙を語る』を読んだことです。宇宙の起源が書いてあり、宇宙物理をやろうと思いました。そして大学院生のとき、初期宇宙銀河の観測的研究がされ始め、それを突き詰めようと遠方銀河の研究を始めました。

橋本: 僕は小学生の頃に見た銀河の図鑑が始まりです。こんなにきれいなものがあるのかと感動し、漠然と天文学者になりたいと思いました。それで天体望遠鏡を買って実際に星を見たら、写真みたいにきれいじゃない(笑)。でもその図鑑で、宇宙は大きく、遠くにも銀河があることを知り、遠くの銀河、つまり過去の宇宙を解き明かしてみたいと思いました。

井上: 観測天文学のいいところは、実際に見て調べられることです。観測可能な範囲でどこまで見られるかを追究するフロンティアですね。1つ見つけたら、さらに遠くを見つけたい。

橋本: 誰も見たことのない世界を見つけるロマンです。終わりのない冒険の、まだ第一章が終わったところといった感じです。

–– 今回、MACS1149-JD1を選んだ理由は?

図1 MACS1149-JD1の存在する場所
MACS1149-JD1は、ハッブル宇宙望遠鏡が赤外線観測した銀河団MACSJ1149.5+2223と同じ方向にある。図は、その観測画像に、アルマ望遠鏡で捉えたMACS1149-JD1の酸素分布(囲み内に緑色で示す)の画像を重ねたもの。MACS1149-JD1は、この銀河団よりはるか遠くに存在する。 | 拡大する

井上: アルマ望遠鏡で最遠方銀河の研究を始めようと思った2012年、当時見つかっていた遠方銀河で最有力候補だったのです。ハッブル宇宙望遠鏡のデータから赤方偏移が9〜10とされていました。

–– 赤方偏移とは?

井上: 遠くの天体の波長が、宇宙の膨張のために長くなる現象です。電磁波を伝搬させる空間が伸びているので、その波長も伸びて観測されるのです。色でいうと、赤い方にずれて観測されるので赤方偏移と呼ばれます。赤方偏移がzのとき、波長は(1+z)倍伸びて観測されます。赤方偏移の値を基に、距離が算出されます。

–– 酸素を観測に用いたのはなぜでしょう?

井上: 宇宙で1番多い元素は水素で、2番目がヘリウム。次いで酸素、炭素です。初期宇宙では、恐らく酸素が3番目に多い元素です。また、比較的近い小さめの銀河の観測や天の川銀河内の観測から、盛んに星が形成されている若い銀河は紫外線を多く出しており、紫外線を受けた酸素は2回電離して輝線を出すことが分かっています。さらに、O++の輝線は他の元素に比べて非常に明るい。こうした現象は、遠方銀河でも同じだと仮定したのです。

–– 2年前にも131億光年かなたの銀河で酸素の輝線を観測していますね。

図2 アルマ望遠鏡で観測されたO++
左は、ハッブル宇宙望遠鏡の観測によるMACS1149-JD1の画像に、アルマ望遠鏡で観測されたO++の強さの等高線を重ねたもの。中心ほど強くなっている。破線はノイズで少しネガティブになっている場所。右は、アルマ望遠鏡で観測されたMACS1149-JD1からのO++の輝線。赤方偏移に換算して、9.11付近にピークが見られる。 | 拡大する

井上: 実をいうと、最初からMACS1149-JD1を観測して距離を決めたかったのです。アルマ望遠鏡の観測時間は、提案が採択されないともらえません。1回目は、MACS1149-JD1単独での観測提案で不採択。遠方宇宙で酸素の輝線の観測実績がなく、そんな予想は信じられないというのが理由です。そこで2回目は、MACS1149-JD1と距離が分かっている別の遠方銀河SXDF-NB1006-2の観測を提案。SXDF-NB1006-2は、遠方銀河でも酸素の輝線が観測されることを証明するためのものでした。しかし、SXDF-NB1006-2の観測のみが採択。結果は予想通り1。この成果により、ようやくMACS1149-JD1の観測時間をもらえました。

–– 検出できたときはどんな気持ちでしたか?

橋本: ビックリしました。データ画像を再生していたら、「今のはっ!」となり、その瞬間は冷や汗をかくような感じで焦りました。感動で興奮して夜も眠れませんでした。翌朝、井上さんに「ちょっといいですか。検出しているみたいです」と報告。でも、反応がいまいちで……。

井上: 「いいよ、何?」と返事をする前に、とうとうと話し始めたんですよ。僕ももちろん、「あったんや、よかった」と思いましたが、まだ確定ではありません。興奮している人を落ち着かせて、もうちょっと慎重に検証しようよと。

橋本: それから1週間くらい検証を重ね、間違いないということになり、共同研究者たちにデータを回覧して、そこから論文を書き始めました。

–– 今回の成果2の意義は?

井上: 1つは、最遠方の銀河として正確な距離132.8億光年(赤方偏移9.11)が分かったこと。もう1つは、この銀河は、今見えている132.8億年前だけでなく、135.5億年前にも星を形成していたことが分かったことです。これはビッグバンから2.5億年後の宇宙(赤方偏移に換算すると15)で星が形成されていたことを示しています。

橋本: つまり、135.5億年前に1回目の星形成(古い星)があり、やがて寿命を迎えた星が超新星爆発を起こし、いったん星の活動が収束します。その後、散らばっていた星間物質が銀河本体の重力で再び集まってきて、132.8億年前に2回目の星形成(若い星)が始まり、今、その姿を見せているわけです。

この説明にたどり着くには、ちょっと苦労しました。MACS1149-JD1は、ハッブル宇宙望遠鏡やスピッツァー宇宙望遠鏡でも観測されています。特に、スピッツァーの2つの波長の測光データの強度に段差が生じています。これまで正確な赤方偏移が分かっていなかったために、こうした測光データに関してさまざまな解釈がありました。今回、正確な赤方偏移が決定され、観測点の正確な静止系波長が分かりました。すると、スピッツァーの強度の段差は、銀河が若い星だけの構成だとすると説明がつきません。試行錯誤を繰り返し、矛盾なく説明できるのは、若い星と古い星という2つの星種族が存在するという解釈でした。

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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