Nature ハイライト

Insight:自己免疫を考える

Nature 435, 7042

ヒトの免疫系は途方もなく強力な武器で、ほとんどの疾患や感染症をはねつけてしまえる。しかし身体は時に誤って、免疫系に自分自身を攻撃させてしまう。こうした「友軍の爆撃」は、さまざまな自己免疫疾患を導くことがあり、悲惨な結果をもたらす場合もある。今週号のInsight特集では自己免疫に関する研究分野での最新の知見を紹介する。  自己免疫疾患に苦しむ米国人は約1000万人にのぼり、その中には糖尿病、慢性関節リウマチ、多発性硬化症など40種類以上の病気が含まれる。こうした疾患の多くは治癒が困難または不可能だが、それは問題の根源、つまり身体の組織そのものを除去するわけにはいかないからだ。では、自己免疫応答を起こす人と起こさない人がいる原因は何なのだろうか。  遺伝によって特定の遺伝子の組み合わせを持っている人は、外部因子が引き金となって免疫応答が自分の体の組織に向けられるようになるとJ RiouxとA Abbasは説明している。彼らは、ゲノム全体にわたる解析が自己免疫の遺伝的基盤を突き止めるのに役立つだろうと述べている。ヒトゲノム解読プロジェクトが完了して以来、研究の焦点は、遺伝子にコードされたタンパク質の解析に移りつつある。C G Fathmanたちは、ゲノム学やプロテオーム研究の新技術は、自己免疫疾患に関する分野での重要な発見につながるだろうと述べている。  C Goodnowたちは、我々の免疫系はいわば身体の「第六感」であって、外部から侵入しようとするどんな化学構造にも対応可能な受容体を備えていると述べている。受容体の一部は、我々の身体を作っている成分を認識するから、こうした認識を抑制する機構が進化してきた。この機構は、ヒトとその他の哺乳類に共通であることから、動物モデルを用いた実験が可能であるというわけだ。また、多くの注目を集めているもう一つの研究領域は、調節性T細胞の役割に関するものだとM KronenbergとA Rudenskyは論じている。こういうT細胞は、免疫系に異常がないかどうか監視し、病因となる自己反応性細胞の活性を調節標的とする。しかし、自己免疫疾患にかかっている人の一部では調節性T細胞に欠陥があり、病因となるT細胞が見逃されたままとなることがある。  重い自己免疫疾患患者の免疫系をリセットする方法の1つとして考えられるのが、造血細胞の移植(HCT)を使うものである。M SykesとB Nikolicが、異論の多いこの方法について解説しており、こういう治療法の将来について前向きの議論を展開している。  最後にM FeldmannとL Steinmanが、自己免疫研究の「聖杯」にあたる究極の目標、すなわち実用可能な抗原特異的免疫療法について論じている。

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