Nature ハイライト

生化学:いろいろ選べる仕組み

Nature 443, 7108

多剤排出輸送体は、がんの化学療法や細菌感染の治療の際に重大な問題を引き起こす。1個の輸送体が、構造の似ていない非常に多様な化合物をどのようにして認識して輸送できるのか、その仕組みは生物学的に謎であった。今回の2種類のまったく異なる多剤排出輸送体の結晶構造に関する発表は、この難問の解明への手だてとなるだろう。1つめの研究では、大腸菌由来の多剤排出輸送体AcrBの構造が決定された。AcrBを構成する3つのサブユニットの構造が、基質結合の前、基質と結合した状態、基質排出後という輸送サイクルの異なった段階でとらえられており、ゆったりと広い多剤結合ポケットが複数の部位での結合によって多数の基質に対応する。また2つめの研究では、黄色ブドウ球菌由来のATPによって駆動される多剤輸送体の構造が決定された。この「ABC」輸送体ファミリーが臨床的に重要なのは、がんの治療に使われるさまざまな細胞毒性化合物の細胞からの排出にかかわっているからである。外側に向けて開いた輸送体の構造は、ヒト相同体のモデルとして役立ち、化学療法に使われる薬剤の排出を抑えるための薬剤の合理的な設計に道が開けそうだ。

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