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スピントロニクス:補償磁性体からの時間反転対称性を破るスピン注入
Nature 659, 8139 doi: 10.1038/s41586-026-11227-7
スピン流の生成と輸送は、電荷だけでなく電子スピンを用いて情報を運び、操作する、技術的に重要な分野であるスピントロニクスの中心を成す。従来、電気的なスピン注入、および電荷流とスピン流の分離は、スピン偏極が正味の磁化に起因する強磁性体、あるいはスピンホール効果などの相対論的効果に依存していた。今回我々は、正味の磁化がゼロになる補償磁性体Mn5Si3からのスピン注入を実証する。我々は、横型スピンバルブ素子を用いてMn5Si3から非磁性チャネルへ電気的にスピンを注入し、その伝播を、空間的に離れた強磁性電極で検出した。Mn5Si3の、互いに時間反転した磁気状態を切り替えると、検出されるスピン信号が反転した。これは、このスピン注入が時間反転対称性を破ることを実証している。この挙動は2つの異なる電気バイアス印加配置で観測され、従来の強磁性体によるスピン注入やスピンホール効果によるスピン注入とは異なる特徴的なシグネチャーが得られた。対称性解析、第一原理計算、スピン輸送のモデル化により、今回の観測結果が、正味の磁化が存在しないにもかかわらずスピン偏極電流が生じ得るMn5Si3の交替磁性秩序と整合することが示された。計算からは、従来の強磁性体に匹敵する、6.5~10%というスピン偏極率が得られた一方、実験のスピン輸送のモデル化からは、50~130 nmというスピン拡散長が示された。今回の結果は、補償磁性体が、その磁気秩序によって制御されるスピン流を生成できることを示す実験的証拠を提供するとともに、Mn5Si3の交替磁性が、正味の磁化を伴わないスピントロニクス機能を実現できることを実証している。

