神経科学:前頭前野–運動野の領野化を支配するレチノイン酸自己調節ループ
Nature 659, 8139 doi: 10.1038/s41586-026-11014-4
前頭葉は、複雑な認知と目標指向性行動を支える前頭連合野(前頭前野、PFC)と、運動を実行する運動野(MC)から構成される。感覚運動野–連合野間の軸に沿って、それぞれに異なる領域のアイデンティティーと、それらをつなぐ神経結合が確立されることが、大脳皮質領域の組織化と機能のための基本的な基盤を提供する。その関連で、レチノイン酸(RA)シグナル伝達は、PFCの発生の重要な調節因子として近年注目されてきた。しかし、発生段階のPFC内にRAシグナル伝達を空間的に限局する機構と、その下流にあるRA応答性遺伝子ネットワークは、十分に解明されていない。今回我々は、発生段階のヒトPFCにおけるRA関連遺伝子調節ネットワークを明らかにし、MEIS2が、このネットワークの重要なハブ遺伝子であることを突き止めた。MEIS2は知的障害や自閉スペクトラム症に関連する転写因子をコードする遺伝子である。マウスにおいてMeis2を最終分裂後の皮質興奮性ニューロンで欠失させると、将来PFCとなる領域が、分子特性と神経結合特性の点で運動野様となる方向へ部分的に再指定された。この結果は、皮質領野アイデンティティーの確立と維持において、最終分裂後のニューロンが極めて重要な役割を担うことをはっきりと示している。Meis2の欠失に伴い、発生中の内側前頭前野(mPFC)では、RA合成酵素ALDH1A3を発現する興奮性ニューロンの集団が大幅に減少し、その結果、RAシグナル伝達そのものも大幅に低下した。これらの知見から、RA → MEIS2 → ALDH1A3 → RAという保存された自己調節ループが存在し、これによって、PFCでRA濃度が高くなる勾配が強化され、MC–PFC軸が形成されることが明らかになった。総合すると、我々の知見は、ニューロンのアイデンティティーの特定の特徴によってRAシグナル伝達が強化され、それによって前頭前野領域と運動野領域の重要な特徴が規定されるという、最終分裂後のニューロンで働く機構を示している。この発見は、古典的なモルフォゲンと、転写アイデンティティーおよび神経回路の形成・機能との連関を示すとともに、精神神経疾患との関連の可能性も示している。

