スピントロニクス:八極子駆動スピントルクによる反強磁性トンネル接合のスイッチング
Nature 658, 8138 doi: 10.1038/s41586-026-11172-5
強磁性体を用いた磁気トンネル接合は、スピントロニクスにおける標準的なデバイスであり、データストレージ、コンピューティング、センシングなど幅広い用途がある。こうした接合は、トンネル磁気抵抗(TMR)効果による磁気秩序の電気的検出機構と、スピン移行トルク効果による磁気秩序の電気的制御機構を併せ持つ。全反強磁性トンネル接合(AATJ)に正味の磁化がないことから、これらの効果はいずれもAATJでは大きくなり得ないと長く考えられてきた。しかし最近、カイラル反強磁性体を用いたAATJでは実際に、スピン分裂バンド構造の現れである、非相対論的な運動量依存スピン偏極とクラスターの磁気八極子モーメントに起因して、TMRが生じることが示されている。一方、その相反効果であるスピン移行トルクに対応する反強磁性体の効果は、全電流がスピン中性であるため存在しないと仮定されてきた。今回我々は、八極子駆動スピン移行トルク(OTT)と名付けたこの相反効果を示す、ナノスケールのAATJを報告する。我々は、PtMn3|MgO|PtMn3からなるAATJにおいて、電流誘起OTTスイッチングを実証した。このAATJのTMR値は室温で363%、スイッチング電流密度は10 MA cm−2のオーダーであった。我々の理論モデルは、OTTの起源を、AATJを横切る副格子内スピン流と副格子間スピン流の不均衡によって説明し、同等に、各PtMn3層の正味のクラスター八極子偏極がゼロではないことによっても説明する。今回の成果は、反強磁性スピントロニクス用の新たな材料プラットフォームを確立するとともに、大幅に微細化した磁気メモリーと室温テラヘルツ技術に向けた道を開く。

