医学研究:Delphyを用いた、感染症アウトブレイク解析のためのスケーラブルな準リアルタイムベイズ系統解析
Nature 658, 8136 doi: 10.1038/s41586-026-11012-6
病原体のゲノム解析は、感染症のアウトブレイク(集団発生)の追跡、理解、封じ込めにおいて中心的な役割を果たす。しかし、最先端の系統解析ツールは複雑でコストも高いため、その世界規模での利用と効果が制限されている。本研究で我々は、ベイズ系統解析を厳密に再定式化したDelphyを紹介する。Delphyは、ベイズ法の最先端の精度を維持しながら、解析速度、スケーラビリティー、利用しやすさを変革するよう設計されている。Delphyの中核となるデータ構造は、変異の注釈を付した明示的な系統樹である。この構造は、大規模なエピデミック(地域的流行)データセットの高い配列類似性を利用して、系統樹の探索と収束の効率化を可能にする。我々は、エボラ出血熱、ジカウイルス感染症、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)、エムポックス、H5N1亜型ウイルスによるインフルエンザをはじめとして、近年の主要なエピデミックの重要な解析を再現することで、最先端の精度を達成しながら、速度を最大2~3桁向上させられることを実証した。Delphyのスケーラビリティーを評価したところ、10万配列からなるシミュレーションデータセットを1日以内に解析できることが分かった。Delphyは、クライアント側で動作するウェブアプリケーションとして配布され、ユーザーは自身のコンピューター上で、生データをローカルかつ対話的に解析できる。Delphyは、主要なウイルス系統と変異、ならびにそれらの出現と経時的な頻度を自動的に特定し、その不確実性はベイズ理論に基づいて定量化される。Delphyによって、ベイズ系統解析は、将来的な感染症集団発生への対応において、高速かつ利用しやすい最前線のツールとなる。

